20代前半からずっと旅をしているが、若い頃とは旅の仕方がかなり変わった。ここ数年ハマっているのはテーマのある旅。行き先を決めるよりも先にテーマを決め、そのテーマを思い切り楽しめそうな場所を目的地に選ぶ。準備としては現地についての基本情報だけでなく、テーマに関する入門書を読み、できる範囲でざっくりと把握しておく。ネットのなかった昔と比べ、事前に収集できる情報量が格段に多くなっているので、リサーチに時間をたっぷりかけてプランを作っている。そして、現地に行ったらそのテーマに関するものをできるだけ多く見て、できるだけ多く体験する。現地で気になったことは家に帰ってからネットや本で調べる。
そんなのは面倒くさいとか、ふらっと出かけて現地での偶然の出会いや発見を楽しむことこそ旅の醍醐味なのだとか言われそうだけど、私の場合、旅とは事前のリサーチを楽しみ、現地での時間を楽しみ、そして帰宅後にブログにまとめるまでの全行程を味わい尽くすことなので、今のスタイルがとても気に入っている。この方法だと1回の旅行で半年間は楽しめる。それに、テーマを設定することで何か最低一つの事柄にじっくり取り組むことになり、自分の中にコンテンツとして蓄積されていく。貧乏くさい考えかもしれないけど、単に消費して終わるだけだと時間やお金がもったいないので、少しでも何かを積み上げていきたいと思ってしまうのだ。
一つのテーマ旅行をすることでそこから連鎖して新しいテーマに興味が湧くことも多い。これまでに以下のようなテーマ旅行を実行して来た。
ドイツ、洞窟探検の旅
南ドイツ、シュヴァービッシェ•アルプの洞窟をめぐる旅。シュヴァービッシェ•アルプはジュラ紀に形成された石灰岩の山脈で、無数の洞窟のある美しいカルスト地形はUNESCOグローバルジオパークに登録されている。鍾乳洞や地下洞窟など、1週間かけて全部で11の洞窟を回った。シュヴェービッシェ・アルプの洞窟群は考古学的にも非常に重要な洞窟群で、洞窟探検のワクワク感と考古学を同時に楽しむことができるのが素晴らしい。頭も身体もフル回転でクタクタになったけれど、それだけ充実した満足な旅になった。
その2 考古学テーマパークArchäopark Vogelherdで氷河期の生活を体験
その3 地下55mまで潜れる地下洞窟、Tiefenhöhe Laichingen
その4 世界最古のヴィーナス像と笛が出土されたホーエ・フェルス
その5 子どもと楽しめる洞窟、BärenhöhleとNebelhöhle
ドイツ、隕石を巡る旅
隕石孔の町、ネルトリンゲンとその周辺で隕石について学ぶ旅。博物館で隕石標本を眺めるだけでなく、ジオガイドさんの案内でクレーター内を歩き、隕石衝突の痕跡を観察したり、隕石衝突の際に形成されたガラスの破片を含む岩石「スエバイト」を採取するという特別な体験ができた。
1500万年前の隕石のかけらが見つかったシュタインハイム盆地のメテオクレーター博物館
ネルトリンゲン、リース・クレーター内のジオトープで隕石衝突の跡を観察
ドイツ、火山とマール湖探検の旅
ドイツ東部のアイフェル地方は火山地帯でUNESCOグローバルジオパークに登録されている。火山をテーマに4泊5日でアイフェルへ行った。しかし、火山観光といっても、火山に登ったり、温泉に入ったりするのではない。アイフェルには「アイフェルの目」と呼ばれる、火山活動でできた丸い湖が無数にある。緑に縁取られたレンズのような姿が神秘的で美しいマール湖を巡るのが目的だった。また、火山アイフェル・ジオパークは湖も素晴らしいが、珍しい岩石や化石も豊富で、一味違った火山観光を楽しめた。
火山アイフェル・ジオパーク その1 「アイフェルの目」と呼ばれる美しいマール湖群
火山アイフェル・ジオパーク その2 マール湖跡からも化石がザクザク。Manderscheidのマール博物館
火山アイフェル・ジオパーク その3 アイフェル火山博物館で見られる陶器のような不思議な石
火山アイフェル・ジオパーク その4 岩石ワークショップと石探し
火山アイフェル・ジオパーク その5 ゲロルシュタインの自然史博物館と化石探し
火山アイフェル・ジオパーク その6 120トンもある巨大な火山弾、Lavabombe Strohn
ドイツ、鉱石と化石を探す旅
ラインラント=プファルツ州のフンスリュック山地は岩石と化石の宝庫である。特に「ドイツ宝石街道」上にあるイーダー・オーバーシュタイン(Idar Oberstein)は古くから宝石の研磨産業で有名で、世界の希少な貴石が見られるドイツ貴石博物館やメノウコレクションが素晴らしいドイツ鉱物博物館がある。しかし、せっかく行くからには自分でも石を探したい。ジオガイドさんとの2日に渡る岩石・化石採集エクスカーションに参加し、とても面白かった。
デボン紀から第三紀までの様々な時代の化石が見つかるフンスリュック山地
坑道内で貴石を間近に見られる観光貴石鉱山、Edelsteinminen Steinkaulenberg
世界の希少な貴石が見られるイーダー・オーバーシュタインのドイツ貴石博物館
店主が化石コレクションを見せてくれるワインとアクセサリーの店、HerrsteinのGoldbacsh Weine & Steine
パナマ、野生動物と生物多様性について学ぶ旅
中米の国、パナマは運河が有名なだけでなく、世界の生物多様性ホットスポットの一つである。パナマの国土は南北アメリカ大陸を繋ぐ東西に細長く伸びた地峡で、およそ約300万年前、北米大陸と南米大陸が繋がることで両者の動物種の大規模な交換が起きた。だから、パナマにはものすごい数の異なる種が生息している。哺乳類だけでおよそ240種!鳥や虫や魚の種類の豊かさは言わずもがなである。パナマのワイルドな自然と多様な生き物を堪能した。
Palmiraの動物保護施設、Jungla Wildlife Center
ドイツの給水塔を巡る旅
ある日、当時ベルリンに住んでいたライターの友人、久保田由希さんとおしゃべりしていて、ドイツには古い給水塔がたくさんあって、なんか気になるよねという話になった。そもそも給水塔とは何なのか、知りたくなった。二人で手分けして調べようということになり、由希さんはベルリンの給水塔を、私はブランデンブルクの給水塔を巡る旅に出た。それまでなんとなく眺めていた給水塔だったが、調べてみると背景がそれぞれ面白くて夢中になった。その成果は自費出版の冊子『ベルリン・ブランデンブルク探検隊 給水塔』にまとめている。
イタリア、シチリア&エオリア諸島火山旅行
同じ火山がテーマの旅でもドイツのアイフェル火山とはガラリと違う、ダイナミックで熱〜い火山旅行。イタリア、シチリア島のエトナ火山、エオリア諸島のフォッサ火山、ストロンボリ火山という3つの火山に登り、火山岩である黒曜石の大産地リーパリ島で石切場を散歩したり、溶岩でできた建物を眺めたりと火山とそこから派生するいろいろなものに触れることができ、とてもエキサイティングな旅になった。
セイシェル、海の生き物に出会う旅
島国日本で生まれ育ったのに、故郷は内陸部、そして成人してからの大部分をドイツで暮らしていて、海には残念ながらあまり縁がない。魚の種類もほとんど知らない。あるとき読んだ海洋生物学の本がとても面白くて、海の生き物に出会いたくてインド洋のセーシェルへ10日間のヨットクルーズに出かけた。クルーズといっても小さな船でゴージャスな旅ではなかったが、美しいインド洋で毎日シュノーケルをして魚との遭遇を堪能した。GoProで撮った水中写真や動画を見返して、リーフガイドと照らし合わせて魚の種類を特定する作業が楽しくてたまらない。
なぜセイシェルにしたのかというと、ポスターなどでよく見かける、ラ・ディーグ島の花崗岩の巨石が横たわる海岸風景があまりに印象的で、あのような景色がいかにしてできたのかを知りたいと思ったから。
セイシェル・ヨットクルージング シュノーケルでインド洋の生き物を観察
興味のあるテーマはまだまだたくさんある。この先、どんなテーマの旅ができるかな。