前回
のデンマーク地質旅行の続き。

ステウンス・クリントの崖は下部が白亜紀後期のチョークの地層、その上にK-Pg境界であるFish Clayという極薄の地層を挟んで古第三紀の石灰岩の地層が重なっていた。ステウンス・クリントのチョークの層を「白亜紀の生き物の化石が埋まっていないかなあ」と思いながら眺めていたら、岩肌にウニの化石らしきものが見える。

紫の丸で囲んだところに何かがある。

ズームレンズを通して見たところ、やっぱりウニっぽい!しかし、ステウンス・クリントは世界遺産で、ハンマーで岩を叩いて化石を取り出したりするのはご法度である。下に落ちているものなら拾っても良いそうだ。下に何か落ちてないかなあ。そう思って、フリントで埋め尽くされた地面を見ると、

おおっ!フリントにうっすらとウニの殻の模様がついているではないか!これはどういうこと?ウニの殻の中にフリントが形成されたのだろうか。

なぜこれらのものがウニだとわかったかというと、これまでに別の場所でウニの化石を大量に拾っているからなのだ。それについては以下の記事にまとめた。

ハノーファーで白亜紀の化石を採集しよう

しかし、ステウンス・クリントの海岸に落ちていたのはこのフリント1つだけ。これでは物足りない。どこか近くに化石を採集できる良い場所はないかと調べてみたところ、内陸に25kmほど移動したファクセ(Faxe)という町に地質学博物館があり、そこで化石収集のガイドツアーを提供していることがわかった。よしっ、そこへ行ってみよう。

これがGeomuseum Faxe(ファクセ地質学博物館)。博物館は採石場の敷地に面している

 

ファクセの石灰岩採石場

うわー、すごい!真っ白な石切場だ。ガイドツアーに申し込むと、ガイドさんの監督のもと、ここで化石を拾うことができるのだ。でも、チョークかなと思ったのが石灰岩だときいて、あれっ?と思った。だとすると、K-Pg境界の上の古第三紀の地層ということになる。白亜紀の地層を期待していたのだけれど、まあ、いいか。せっかくここまで来たので、ツアーに申し込んだ。ツアー前にまずは博物館の展示を見て予習することにしよう。

博物館の内部。展示を見てわかったのは、ファクセの町はステウンス・クリントよりも高い位置にあり、採石場の地層はおよそ6300万年前のものだということ。つまり、白亜紀末の生物の大量絶滅後に形成された地層なのだった。白亜紀同様、古第三紀にも現在のデンマークは暖かい海だった。古第三紀の海にはサンゴ礁が広がり、貝やカニなど多くのサンゴ礁に住む多くの生き物がいた。博物館にはサンゴの化石がたくさん展示されている。

集団死したウニの化石が埋まった岩。ウニの棘がたくさん見える。

6600万年前の隕石の落下による気候寒冷化(「隕石の冬」)が引き金となった生物の大量絶滅で恐竜やアンモナイトは地球上から消え去った。だから、ファクセの採石場からそれらの化石が出ることはない。しかし、サメやワニは今日まで生き延びている。写真はサメの歯の化石。

ということで、いよいよガイドツアーに出発だ。夏休みだからか、子ども連れの参加者が多かった。ハンマーやノミは博物館で貸してもらえるが、私たちはこんな機会もあろうかと自前の化石収集道具を持って来たのだ。ガイドさんの説明によると、石切場はサンゴの化石だらけ。そのほかにカニや腕足類、貝、そしてサメの歯の化石もよく見つかるという。「岩にスパゲティみたいな構造が見えたら、それはサンゴですよ!」と教わり、さっそく探し始めたのだが、、、、。

サンゴだらけという言葉の通り、あたりは見渡す限り、サンゴ、サンゴ、サンゴ。逆にどれを拾ったらいいのかわからない。サンゴは群体を作るものが多いので大きな岩にびっしりサンゴの化石が埋まっていたりする。でも、大きな塊は運ぶのに重いし、かといって小さく割ればサンゴも割れてしまう。

変色したサンゴの化石を拾って来た

一つひとつの生き物の化石を拾うのとは勝手が違って、どこに着目したらいいのか、よくわからなかった。なので、いくつか、かけらを拾った後はサンゴ以外の化石を見つけることに集中することにした。

カニの甲羅の化石

 

いくつかカニや腕足動物の化石を見つけることができたが、うーん、なんかちょっと思ってたのと違う。ウニやべレムナイトなど、ある程度の大きさの化石を期待していたので、小さいものばかりで少し期待外れ。白亜紀の地層の方がいいなあと思ってしまった。

そんなわけで、化石収集のアクティビティとしてはそれほどエキサイティングな場所ではなかったものの、白亜紀末に生物の大量絶滅が起こった後、生態系が復活し、古第3紀にはまた別のかたちで海洋生物相が繁栄したのだということは感じることができた。この小さな体験もまた、今後何かに繋がるかもしれない。

 

 

暑い!夏でも比較的涼しいはずの北ドイツも猛暑である。爽やかな風の吹く場所へ行きたくなった。

バルト海の港町、ロストック(Rostock)からフェリーに乗って、デンマークでも行こうかなあ。デンマークへは10年ほど前に一度行ったことがある。そのときに見て、忘れられない景色があった。それは、ムン島という小さな島にある白亜の断崖、ムンスクリント(Møns Klint)。

ムン島、ムンスクリントの崖(2007年頃撮影)

険しく切り立つ白亜の断崖。すごい。こんな景色を見たのはそのときが初めてで、とても印象に残った。

白亜というのはチョークのことで、チョークは地質時代の白亜紀に浅い海の底に堆積した、石灰質の殻を持つ小さな藻の死骸でできていると知ったのはそれからしばらく後のことだ。

このときは曇っていて肌寒く、海の水は乳白色に濁っていた。子どもたちと海岸を歩いていたら、地面に奇妙なものが落ちているのに気づいた。五寸釘の先っぽのような、あるいは細めの弾丸のようなかたちをしていて、色は茶色っぽく少し透き通っている。何だろう?不思議に思って拾い上げた。あたりには同じようなものがいくつも転がっている。思わず拾い集め、理由もなくポケットに入れた。そして、崖の長い長い階段を登った。崖の上にはGeo Centerという名前の地質学博物館があった。なんとなく中に入って展示を見てびっくり!ほんの少し前、崖の下で私が拾ったものは化石だったのだ。

初めてムンスクリントを訪れたときに海岸で拾った化石

これらはべレムナイトという、古代のイカの化石であるという。白亜紀の終わりに絶滅したが、今、私たちが食べているイカと見た目はそっくりな生き物だったらしい。この尖った化石は、イカの三角形の部分の先端部にあった殻(内骨格)。それを知って衝撃を受けた。ねえねえ聞いて聞いてと、いろんな人に見せて回ったのだけど、ほとんどの人は「ふーん。それが?」という反応。まあ、そうかもね。でも、私にとっては自分のその後を変える事件であった。これがきっかけで、化石というものに興味を持つようになったのである。

その後、ドイツのリューゲン島や南イングランドなど、北ヨーロッパのいくつかの場所で似たような白亜の崖を見る機会があり、そのたびに興味が増していった。今ではべレムナイトだけでなくウニなど他の白亜紀の化石も少しづつ集めている。そんなわけで、暑いので白亜の崖でも見て涼みたいし、あわよくば化石広いをと思ったのだ。どこにしようかなと情報検索して決めたのは、首都コペンハーゲンのあるシェラン島の東側沿岸に伸びる長さ15kmの断崖ステウンス・クリント(Stevnsklint)約6550万年前の中生代白亜紀の地層とそれに続く新生代第三紀の境目であるK-Pg境界が世界で最もよく観察できる場所として、UNESCO世界遺産に登録されているらしい。K-Pg境界って言葉は知っているけど、どんな地層なんだろう?気になり出したらいてもたってもいられない。よーし、デンマークに向けて出発だ!

 

ステウンス・クリントは周辺に大きな町もなく、人の姿もまばらな静かな海辺の村だ。世界遺産の断崖は長いが、K-Pg境界をよく観察できるというHøjerupの海岸へ行ってみることにした。崖スレスレのところに古い教会が立っており(写真撮り忘れ)、海岸へはその横手から急な階段を降りる。

相当急なので、人によっては怖いかも。

これがステウンス・クリントと呼ばれる崖である。高いところで約40mと、先に書いたムンスクリントと比べると、ちょっと見劣りするかもしれない。そのせいか、世界遺産の割にはあまり人がいなかった。崖の下の方が白亜紀のチョークの地層で、その上に少し出っ張って古第三紀の石灰岩の地層が重なっている。その2つの地層の間に線を引くように薄ーい地層があり、それが噂のK-Pg境界であるらしい。と言われても、海岸から崖面が遠くて、よくわからない。崖を間近で見られる場所を探して私たちは岸辺を歩いた。

上の地層は出っ張りがあって、下の地層よりも硬そうで、二つの異なる地層だということはわかるけれど、肝心のK-Pg境界とやらはよく見えない。さらに奥へと歩いた。

やっと間近で見られるところまで来た。崖の真ん中あたりに明らかに色の違う層がある。拡大してみよう。

間近で見ると、ステウンス・クリントのK-Pg境界は食パンに挟まれたツナのような層であった。この地層はFish Clay(直訳すると「魚粘土」)と呼ばれる。ツナに似ているから?なわけないか。

この地層の何がそんなに特別なのかというと、それは「恐竜の絶滅に関わっている」からなのだ。と書くと、いやいや、恐竜は絶滅などしていない、今も鳥としてちゃんと生き延びているよと指摘されそうだけれど、それはひとまず置いておいて、ここで言いたいのは人類が誕生するずっと前に生息していた、あの巨大な生き物たちのことである。彼らは白亜紀の終わりに突如絶滅した。恐竜だけではない。同じ時期にアンモナイトも絶滅している。約6600万年前、地球上の動植物のおよそ4分の3が地球から消えたのだ。一体なぜ?

この生物の大量絶滅を解明する鍵となったのがK-Pg境界だった。この薄い堆積層からは、高濃度のイリジウムが検出されている。イリジウムという元素は地球上にはわずかしかないが、隕石には多く含まれる。約6600万年前、巨大な小惑星が地球に衝突し、メキシコのユカタン半島にチシュクルーブ・クレーターと呼ばれる隕石孔を作った。この衝突の際に空に舞い上がった土砂が隕石の塵とともに地表に降り積もったものがK-Pg境界の薄い地層というわけである。このとき、空気中の土砂によって太陽光が遮られ、地球が寒冷化したことが生物の大量絶滅を引き起こしたとされている。

つまり、ステウンス・クリントのFishclay層の上と下では生物相がまるっきりと言っていいほど違う。大量絶滅が起きてほとんどの生き物は消えたが、生き残った一部の生き物が進化し、現在の生態系へと続いている。もし、6600万年前に隕石が地球に落ちなかったら、地球の今はまったく違うものになっていたはず。ここで隕石が落ちた痕跡を眺めている私など、当然、存在していないのだ。

そう考えながら崖を眺めると、なんだか気が遠くなった。

 

(デンマーク旅行の話は次の記事に続く)

 

2019年の秋に庭でバードウォッチングを始めて、約2年半が経過した。最初は庭のテラスに餌台を設置してひまわりの種やピーナツなどを置き、家の中から窓越しに餌台を訪れる野鳥を眺めて楽しむことから始めたが、ただそれだけのことでも生活の楽しみが激増した。

過去記事: ドイツのネイチャーツーリズム 2 自宅の周りでバードウォッチング

さらに餌台に野生カメラを取り付けたら、それまで窓越しに観察していた以上にたくさんの種がやって来ることがわかり、ますます楽しくなった。

過去記事: 野鳥カメラで餌台に訪れる野鳥を観察する

これまでの2年半に自宅の庭で確認できた野鳥は37種。まさかこんなにいろいろな野鳥が来るとは想像もしていなかった。ちょっとした思いつきで始めたバードウォッチングだったのに!

野鳥たちは餌を食べに来るだけでなく、庭で子育てもする。一昨年はシジュウカラ、昨年はシジュウカラに加えクロウタドリの営巣と子育ての様子をカメラを通して観察することができた。今年は同じ巣箱でシジュウカラが営巣を始めたものの、こちらの記事に書いたような事情で中断してしまったのが残念である。

しかし、今年は今年でとても面白い展開になった。というのは、去年までは餌台は冬の間だけ設置し春には片付けていたのを、今年は出したままにしておいたのだ。そうしたら素晴らしいことが起こった。冬の間は個別に餌を食べに来ていた野鳥たちが、それぞれパートナーを連れてやって来た。餌台に入れる小鳥たちだけでなく、モリバト、カササギ、カケスなどの大きな鳥もみんなカップルで現れ、小鳥たちが芝生に落とした餌をついばんでいた。そして、しばらくすると庭やその周囲でそれぞれのカップルが巣作りを始め、やがて生まれたヒナ達に食べさせる餌をせっせと取りに来る姿が見られるようになった。クチバシに詰め込めるだけの餌を詰め込んで巣へ戻っていく親鳥たち。がんばってるなあ。

幼虫をくわえたウソのオス

それから数週間が経過し、ヒナ達が続々と巣立ち始めた。

巣立ったばかりのアオガラの兄弟

カササギに巣を狙われ、父鳥の必死の防衛の末、無事に巣立ったクロジョウビタキのヒナ

オークの木の巣から生まれたゴジュウカラのヒナ

 

巣立ったばかりのヒナを連れて、いろんな種の親鳥達が餌場に集まり、口移しでせっせと子どもに食べさせる。なんとも微笑ましい光景にほのぼの。

親からエサをもらうアオガラの子ども

しばらくの間はそれぞれ親に食べさせてもらっていたが、だんだん大きくなって飛ぶのも上手になると、子ども達だけで餌場にやって来るように。

イエスズメの子どもたち

 

シメの子ども

 

シジュウカラの子ども

 

カケスの子どもはギリギリ餌台に入れる大きさ

 

兄弟でやって来たアカゲラの子ども

最も数が多いのがイエスズメの子どもたちで、10羽以上いる。アオガラとシジュウカラはそれぞれ5羽ほど、アカゲラも2羽生まれた。そんなわけで今年の春は大繁殖と言っていいレベルで野鳥の子どもたちが庭を飛び回っている。

今後はどうなっていくのかな。

 

 

 

今年(2022)の5月から10月までの半年間、アニマルトラッキングを学ぶことにした。

アニマルトラッキングは野生動物の痕跡を観察する活動で、ドイツ語ではSpurenlesenという。野生動物の痕跡には地面に残った足跡や巣、何かを食べた形跡、糞などいろいろなものがある。野生動物の痕跡を観察することで、その環境にはどんな野生動物が生息し、どのように行動しているのかを知ることができる。

身近な環境を散歩していると野生動物の痕跡らしきものを見かけることがよくあって、「何の動物の痕跡だろう?」といつも気になるのだ。特に2020年からヨーロッパヤマネコのモニタリングに参加し、そして今年からはビーバーのモニタリングも始めたことで、ますますいろいろな痕跡を目にするようになった。

凍った湖面に降り積もった雪の上についた動物の足跡

アナグマの巣穴?

面白いものを見つけるととりあえず写真に撮ってネットや手持ちの図鑑などで調べるのだが、よくわからないことが多い。知りたいなあ、見分けられるようになったら楽しいだろうなあと思っていたら、たまたま近場にアニマルトラッキングを教える学校があることに気づいた。これは良いチャンス!とすぐに申し込んだ。

私が参加することになった講座はWildnisschule Hoher Flamingという野外スキルを学べる学校の成人向け講座で、月1度、週末に4日間のキャンプをしながらアニマルトラッキングを学ぶ。申し込むまでまったく知らなかったのだが、米国ではブッシュクラフトと呼ばれるサバイバルスキルの一環としてアニマルトラッキングが捉えらることがあり、トラッキングスクールがたくさん存在するらしい。私が申し込んだ学校は米国の先住民からスキルを学んだ伝説的なアニマルトラッカー、Tom Brown Jr.や、その弟子のJon Youngのメソッドに基づいているという。

これまでに全部で5まであるモジュールの1と2を終了した。参加してみて、その濃さにびっくり。学校の敷地に各自テントを張り、朝7時頃から夜10時過ぎまで野外活動。野鳥の囀りに耳を傾けたり、動物の足跡や巣穴を観察したり、野生動物の骨格や歩き方を学ぶ。ハードな運動をするわけではないけれど、一日中外を歩き回って、同時に頭もフル回転させなければならないのでかなり疲れる。でも、講座の他の参加者たちとは妙に波長が合って、すぐに仲良くなることができた。少人数の講座で、年齢は20代の若者から60歳くらいまで様々だけど、好奇心が強いという点ではみんな一緒なのだ。

アニマルトラッキングで大切なことは野生動物の痕跡を見たらすぐに種を特定することではなく、まずは五感を使ってじっくりと観察し、なぜそこにその痕跡があるのか、その痕跡を残した生き物はどう行動したのかを考えることだそうだ。種名の特定は深い観察の後から自然について来るもので、すぐに種を特定してそれで満足してしまうよりも、問いを丁寧に解いていく方が野生動物をよく知ることに繋がるという。なるほどなあ。そして、観察の際にはスケッチをすることがとても重要だと教わった。講座の提供者は先生ではなくメンターと呼ぶ。答えを識者に教えてもらうのではなく、各自が自らの観察眼を養うことが講座の目的だからだそうだ。

モジュールの間はとにかく忙しくて写真を撮っている暇はほとんどない。最初のエクスカーションでクロヅルの足跡をかろうじて撮った。

 

想像していたよりもハードコアな内容に圧倒され続けているけれど、ほんの少し学んだだけでも景色が変わって見える。身の回りの景色の解像度が上がって、ずっとそこに合ったけれど今まで認識していなかったもう一つの世界を肌で感じられるようになるというか、不思議な感覚である。この地球環境を私たち人間は他の生き物たちと共有しているのだということを急に強く意識するようになった。夜、テントの中に横たわって、響き渡るナイチンゲールの歌を聴きながら眠りに落ちていくのは特別な感覚だ。

アニマルトラッキングを学ぶことにしたのには、身近な自然、とくに野生動物について知りたいということの他に、これといったスキルを持たないので何か一つくらいスキルを獲得したい、というのもあった。どうせなら、あまり多くの人がやらないことをやってみたい。歳と共に体力が衰えるのが心配で、なるべく野外で体を動かしたいというのもある。自然観察にはほとんどお金がかからないし、体を動かすのと同時に知的好奇心も満たされるのが良い。そして、トラッキングスキルを身につけることで今後の旅行もより充実したものになりそうな予感がする。

 

 

2020年春に庭にライブカメラ付きの巣箱を設置し、シジュウカラの営巣の様子を観察している。2020年と2021年の観察記録は過去記事(20202021)の通りだが、3年目の今年も4月に営巣が始まった。

 

巣箱で営巣するメスには名前を付けている。このメスは「マイちゃん(Meiseのマイちゃん)」と命名。長い枝で巣のフレームを作ろうとしているが、なかなかうまく置けないのか、枝をぶんぶん振り回している。

 

営巣を始めて1週間後。卵を産む準備が整ったのか、巣箱の中で寝始めた。

 

動物の毛など、フワフワの素材を次から次へと運んで来てクッションを整える。ネコの毛のような白い毛だけでなく、茶色や緑色など、いろんな色の素材があり。ブロンドの人毛らしき束も混じっていてびっくり。そういえばうちの裏の人、ときどき庭で散髪しているなあ。

 

パートナーのオスも、甲斐甲斐しく餌を運んで来る。マイちゃんは多産ではないようで、21日までに卵を2つ産んだのみ。でも、毎日マメに巣を整えていて順調な様子。と思っていたのだが、今日の昼間、ふとカメラを覗いたら、巣箱の中で異変が起きていた。なぜか巣の真ん中にクロジョウビタキが座っており、その背ろでマイちゃんがオロオロとしているのである。何事かとびっくりして自動録画をプレイバックしてみたところ、なんとマイちゃんがちょっと巣を離れた隙にクロジョウビタキが巣箱に入り込み、戻って来たマイちゃんと大バトルになっていたのだった!

ショッキングな映像なので短くカットしたが、実はこの激しいバトルは数十秒続き、クロジョウビタキはマイちゃんにコテンパンにやられてしまった。クロジョウビタキにしてみれば、良さそうな巣箱があったからちょっと入ってみただけだったかもしれない。しかし、マイちゃんにしてみれば、大事な卵がある巣に近寄られてはたまらない。必死に卵を守ろうとしたのだった。

マイちゃんは戦いには勝ったものの、ぐったりしたクロジョウビタキは卵の上にうずくまったまま動かない。そこをどいてくれないと卵を温められない。どうしたものかと困り果てるマイちゃん。その状態ですでに2時間が経過していた。映像を見ながら、夫と私も「どうする?」と言い合った。野生の生き物同士のことに人間はできるだけ介入すべきではないけれど、このままだと卵もダメになってしまう。ここは巣箱の大家の権限ということで、夫が介入することになった。(私は背が低くて巣箱に手が届かないので)

まず外から巣箱をノックして、鳥たちが自分から外に出て来るかやってみたが、出て来る様子がないのでドアを開けたら、マイちゃんは穴から外に飛び出した。クロジョウビタキはボロボロの姿だったが出血はしていなかったので、空いている別の巣箱に入れて、中で休んでもらうことに。そちらの巣箱にもカメラがついているので、しばらくカメラ越しに様子を見た。パートナーが巣箱の穴から中を覗き込んで呼びかけているのを見てせつなくなる。彼らもきっとこれから子育てをする予定だったのだ。数時間後、クロジョウビタキは亡くなった。自然界は厳しい、、、。

マイちゃんの方はどうなったかというと、人間が介入したことで抱卵をやめてしまうのではないかと心配したが、じきに巣箱に戻って来た。

何事もなかったかのように(内心では「あー、やばかったー」と思っているかもしれないが)、巣を整えている。2つの卵も無事だったみたい。よかった、よかった。

……とホッとしたものの、この2日後からマイちゃんは巣箱に戻らなくなってしまった。

何が原因なんだろうか?この巣箱は子育てに適していないと判断して放棄した?それとも、夫が介入して人間の匂いがついたので放棄したのかもしれない。あるいは、マイちゃん自身の身に何かが起こって巣箱に戻れなくなった可能性もある。

そんなわけで、今年のシジュウカラの育児観察はヒナが生まれる前に終了してしまってとても残念。

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後日談。

数日前、家の中にいたら、窓の外から「ヂヂヂヂヂ、ヂヂヂヂヂ」というシジュウカラの幼鳥の声が賑やかに聞こえて来た。しばらく後に庭の餌台に取り付けたカメラを除いたら、なんと若いシジュウカラが5羽も餌を食べに来ている!

もうかなり大きくなっているので、巣立ってから数週間経過していそうだ。巣箱での抱卵を放棄したマイちゃんが別の場所で新たに営巣して産まれた子達なのか、それとも別のシジュウカラのメスの子達なのかはわからないけれど、こうして元気なシジュウカラの子どもたちの姿が見られて嬉しい。

 

 

 

 

この数年、身近な環境で野生動物を観察するのに夢中になっている。あくまで趣味の範疇なのだけれど、多少なりとも自然保護に貢献できたらいいなと思い、2020年の冬から自然保護団体BUNDによるヨーロッパヤマネコのモニタリングプロジェクトに参加している(実践レポはこちら)。今年の冬で3年目になり、なかなか楽しいので、別の野生動物モニタリングもやってみたいなあと思っていたところ、ブランデンブルク州ヌーテ・ニープリッツ自然公園でのビーバーモニタリングに参加しないかと声をかけられた。二つ返事で参加を決めた。我が家の近くの湖畔や水路沿いにビーバーに齧られた木や巣らしきものをよく見かけるので、以前からビーバーが気になっていたのだ。

ビーバーに齧られた木

ビーバーはかつては北半球の水域のほとんどに生息していた。毛皮や肉、肛門の香嚢から分泌される海狸香を求めて乱獲され、およそ100年前にヨーロッパ全域でほぼ絶滅したが、保護・再導入活動の甲斐あってかなり増え、現在はドイツ全国に4万個体を超えるビーバーが生息している。

ビーバーにはアメリカビーバー(学名:Castor canadensis)とヨーロッパビーバー(学名: Castor fiber)の2種類がいる。ヨーロッパビーバーの大きさは体重およそ30kg、体長1.35mほど。ヨーロッパにおける最大の齧歯類である。

ビーバーモニタリングの目的はビーバーの縄張りを確認し、ビーバーが生息できる環境を保護することにある。なぜなら、ビーバーは個体数が少なくても存在することによって生態系に大きな影響を及ぼす「キーストーン種」だからだ。ビーバーは水域にダムを作ることで知られるが、ビーバーダムによってできる湿地は多くの生物種の生息地となり、生物多様性を高める。また、ビーバーダムは洪水や火災リスクを下げ、有害物質を含む堆積物を堰き止めることで水を浄化する役割も持つ。だから、ビーバーを保護することはビーバーそのものだけでなく、生態系全体を守ることに繋がる。

モニタリングプロジェクトには誰でも参加することができる具体的にどんなことをするかというと、担当地域の水域に沿って歩き、ビーバーの痕跡(齧られた木、ダム、巣など)を探す。

ビーバーに齧られた木

ビーバーに齧られた木は目立つので、見つけるのは難しくない。ただし、古い噛み跡はビーバーが現在そこに生息していることを示すものではないので、齧られてから時間が経っていない場所を見つけることが肝心である。ビーバーは草食で夏に食べる植物の種類は数百種に及ぶが、冬場には主にポプラやヤナギの木の皮を食べる。

噛み跡は簡単に見つかるが、ビーバーの巣(ドイツ語でBiberburgという)を見つけるのは、慣れないと少し難しい。

湖の縁の斜面を利用して巣ができていることが多い。枝が重なり合い、間に泥などが詰まって盛り上がっている。巣の出入り口は水中にあるので見えない。ビーバーは水中では耳や鼻の穴を塞ぐことができ、口の中も歯の後ろを塞げるので、水中でも木を齧ることができる。この巣は長年手入れがされていないようなので、今は使われていないと思われる。

こちらは新しい枝が載っているので、使用中かな。

水場から数メートル離れたところに巣があることもあって、よく見ないと見落としがちである。ビーバーの縄張りは水路1〜3kmほどで、縄張りの中に複数の巣があることもある。ビーバーは一夫一婦制でパートナーを変えない。巣で生活するのは夫婦とその年に生まれた子ども、そして前の年に生まれた子どもである。子どもは2年たつと独立して新しい縄張りを作る。

こちらはビーバーのダム。わかりやすい。

別のダム。

ダムで明らかに水位が変わっているのがわかる。

小さなダム。縄張りの中に複数の小さなダムを作ることもある。

ビーバーは主に夜行性で、人の気配を感じると隠れるので、ビーバーそのものは滅多に目にすることができない。でも、水場を歩けばビーバーがいる痕跡をたくさん見つけることができるので楽しい。モニタリングは繁殖期が始まる前の冬におこなうので、冬場の良い運動にもなって一石二鳥なのだ。

これは私ではなく、プロジェクトメンバーのある女性

でも、モニタリング作業は実はそんなに楽ではないのだ。ビーバーがいるのは人がほとんど来ないような場所なので、遊歩道になっていたりはしない。うっそうと生い茂る葦やいばらの茂みをかき分けて進まなければならないし、基本的に湿地なので靴がびしょびしょになることも。冬だから虫に刺されないで済むのはいいけれど。

ビーバーの痕跡を見つけたらスマホで写真を撮り、GPSで位置を確認してプロジェクトのデータベースにコメントとともにアップロードする。集まったデータはマッピングされ、縄張りが確認された場所は保全の対象になるというわけだ。