クルーズについて書く前に、セイシェルの島の成り立ちについてまとめておこう。

旅行会社のパンフレットだったか、それとも雑誌で見たのかは覚えていない。数十年以上前に白い砂浜の海岸を巨石が縁取るセイシェルの美しくも特異な風景を初めて見たとき、こんな景色がこの世にあるのかと信じられない思いだった。こんな場所へいつか行ってみたい。でも、セイシェルはあまりに遠くて現実感がなく、ずっと夢物語だった。

それが実際に行く気になったのは、セイシェルの島々は「ゴンドワナ大陸のかけら」だということをどこかで目にしたからかもしれない。ゴンドワナ大陸のかけら?それは、どういうことだろう?

グラン・スール島の海岸

去年の夏休暇にはイタリアのエオリエ諸島に行った。シチリア島の北にあるエオリエ諸島は海底火山の活動によって生まれた火山弧である。一番大きなリーパリ島の海岸にはマグマ由来の艶やかな黒曜石が転がっていた。パナレーア島付近では海底から水面へブクブクと火山ガスが吹き上がり、ストロンボリ島では火山がひっきりなしに火を吹いていた。(→ エオリエ諸島への旅レポートはこちら

同じ島でも、インド洋セイシェルの島々には火山はない。セイシェルの島々に特徴的な丸みを帯びたグレーの岩は、およそ5億5000年前、南半球に存在したゴンドワナ大陸を形成した花崗岩だ。2億年前にゴンドワナ大陸は分裂を始め、現在のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、インド亜大陸、オーストラリア大陸、南極大陸の原形ができた。分離したそれらの大陸は、長い時間をかけて互いに離れていき、インド洋が誕生した。そして、インド洋には大陸のかけらがいくつか、島となって残った。大きなかけらはスリランカやマダガスカルになった。セイシェルの島々はうんと小さなかけらだ。こう書いていたら、大きなクッキーが目に浮かんだ。1枚の大きなクッキーをいくつかのピースに割ったとき、割れ目からこぼれ落ちたクッキーのくず。セイシェルはそんな場所だと言っても構わないだろうか。

 

 

「かけら」とはいっても地球スケールでの話。ラ・ディーグ島の巨大な岩

同じくラ・ディーグ島の南西に見られる花崗岩の巨石、Giant Union Rock。太古の大陸が剥き出しになっているのを見るのは不思議な気がする。

ラ・ディーグ島の大人気ビーチ、アンス・ソース・ダルジェント(Anse Source d´Argent)

セイシェルは115の島から成り立っているが、そのうち、継続的に人が住んでいるのはマエー島、プララン島、シルエット島、そしてラ・ディーグ島の4島だけ。10万人弱のセイシェル全国民の大部分が首都のあるマエー島に住んでいる。人が住める陸地の総面積はわずか455㎢。領海は39万㎢と広大だけれど、陸地だけで考えればとても小さな島国で、首都のヴィクトリアも都市というよりも村に近い規模である。

 

先にセイシェルは花崗岩でできた島だと書いたけれど、実はこれは厳密には正しくない。

セイシェルはマエー島を中心とする内部諸島(Inner islands)と、その南西に広がる外部諸島(Outer islands)から成り立っている。花崗岩でできている島は内部諸島のうちの10ほどで、外部諸島はサンゴ礁の島だ。そのほかに石灰岩の島もある。つまり、セイシェルの島の成り立ちはいろいろなのだけれど、花崗岩の島が観光立国セイシェルのイメージとなっているのだ。景観が最も「セイシェルらしい」とされるのはラ・ディーグ島で、ガイドブックの表紙やポスターの写真のほとんどはラ・ディーグ島で撮影されているとのことである。

マエー島の山の中腹からの眺め

一番大きなマエー島は山がちで緑に覆われ、てっぺん付近以外では岩はそれほど見えない。山は険しく、平らな土地は海岸付近のみ。土の層が薄いので斜面に家を建てるのはあまり安全とは言えないらしい。

岩が見えている部分

2004年のスマトラ沖地震の際に発生した津波はマエー島の東海岸にも到達した。幸い、津波そのものはそれほど大きな被害をもたらさずに済んだとのことだが、その直後に激しい雨が降り、土砂崩れで多くの建物が崩壊したらしい。そのため、なるべく平らなところに人が住むようにと、マエー島の東側には埋め立て地がいくつも作られている。

ヴィクトリアを見下ろす

向こうに見える赤い屋根の建物が並ぶ島は、ヨットハーバーのあるエデンアイランド

風車と太陽光パネルが設置された埋立地が見える

 

さて、今回のヨットクルーズの主な目的は「海の生き物を見ること」である。毎日スノーケリングをするつもりなので、どれだけたくさんの海の生き物が見られるか、楽しみだ。でも、セイシェルの面白さはもちろん海だけにあるわけではない。陸の生態系もまた、興味深い。というのも、セイシェルはアフリカ大陸から1600kmも離れているので、ゴンドワナ大陸の分裂後にアフリカで繁栄した陸上哺乳類が上陸することがなく、後に人間によってもたらされたネズミや犬猫以外に哺乳類がほとんどいないのだ。その一方で、孤立した地理条件のもとでセイシェル固有の動植物が進化した。そうしたセイシェル特有の生態系やその保護の状況についても知りたい。

 

この記事の参考文献:
ガイドブックシリーズ Richtig Reisen、”Seychellen” (2010) Dumont Verlag
Robert Hofrichter  “Seychellen: Juwelen im Indischen Ozean. Naturführer  (2011) Tecklenborg Verlag