素晴らしい体験ができたサンブル国立保護区を後にし、次に向かったのは、巨大な大地の裂け目、東アフリカグレート・リフト・バレー(大地溝帯) に位置する淡水湖、ナイヴァシャ湖(Lake Naivasha)だ。

ナイヴァシャ湖は首都ナイロビの北西約90km、標高約 1,884m にあり、ケニアで最も高い場所にある湖のひとつ。気候は赤道直下にしては涼しく、輸出用の花の栽培が盛んである。湖沿いにはたくさんのビニールハウスが並んでいた。

予定されていたここでのアクティビティはボートサファリである。ナイヴァシャ湖は水鳥の楽園 として有名で、約 400種以上の鳥類 が記録されているのだ。1995年にラムサール条約湿地に登録されている。

ボートに乗り込んだ。サンブルの暑い空気と比べると、とても爽やかだ。

湖の浅瀬にたくさんの枯れ木があるのが目に付く。ナイヴァシャ湖の水位は変動しやすく、2020年には過去50年間で最も水位が上昇し、湖の面積は154㎢から193㎢へと大きく拡大したという。つまり、枯れ木の立っているところは、数年前までは陸だったのだ。「ナイヴァシャ」とはマサイ語で「大きな、動きのある水」を意味するらしい。

いくつかのリゾート施設も水没してしまっている。ひゃー。

ナイヴァシャ湖は、リフトバレーが形成される過程で火山活動と地殻変動 によってできた盆地に水が溜まって形成された。特徴的なのは、出口がないのに淡水湖であることだ。出口のない湖は蒸発によって塩分が濃縮されて塩湖になるのが通常だが、ナイヴァシャ湖は地下水や湿地を通じて水が流出しているので、淡水湖のまま 保たれているのだという。湖とその周辺には多様な生態系が発達し、鳥類だけでなくさまざまな生き物が生息している。

たとえば、カバ。ナイヴァシャ湖には1500頭ものカバが生息し、湖の象徴的な動物とされているらしい。サファリカーに乗ったままライオンを間近で見ても怖いとは感じなかったが、カバだらけの湖でボートに乗るのはさすがに怖いものがある。なんといってもカバは体重1.5〜3トンもあるし、縄張り意識がすごく強くて攻撃的だという。ケニアにおける野生動物による死亡事故はカバとの遭遇によるものが一番多いそうだ。もちろん、ガイドさんはカバの習性を熟知しており、危険な距離まで近づいたりはしないだろうけれど、、、。

びっくりしたのは、浅瀬の水の中に立って魚釣りをしている人たちがたくさんいたことだ。カバが怖くないのだろうか?と思って観察していたら、しばらく後、なんらかの合図のようなものがあり、急にみんな岸に上がって走り去った。ボートサファリのガイドさんによると、「彼らがやっているのは違法なんです。ライセンスを持っていなければ漁業はできません。今、取り締まりの警察が来たので、急いで逃げたんですよ」とのことだ。ほとんどの人は上手く逃げたが、何人か逃げ遅れた人がいて、岸に上がるのは諦め、泳いで岸から離れようとしている。なんてこと。カバに気をつけてー。

すっかりカバに気を取られてしまったが、目的は野鳥。ボートサファリ中、いろいろな野鳥が観察できた。

カワウ (Great cormorant, Phalacrocorax carbo)。近くの木に大きなコロニーを作っていた。

魚を捕まえたヒメヤマセミ (Pied Kingfisher, Ceryle rudis)

モモイロペリカン (Great white pelican ,Pelecanus onocrotalus) 目の前でど迫力。

アフリカトキコウ (Yellow-billed Stork, Mycteria ibis)

キエリボタンインコ (Yellow-collored lovebird, Agapornis personatus)

ハダダトキ (Hadada ibis, Bostrychia hagedash)

さっきの違法な漁師の人から買った魚をガイドさんがボートから湖面へ放り投げると、すぐにサンショクウミワシ(African Fish Eagle, Haliaeetus vocifer)が取りに来た。

写真を撮れなかったけれど、他にもたくさんの野鳥を見ることができた。

さて、岸の方に目をやると、岸辺の水面にはホテイアオイ(Water hyacinth, Pontederia crassipes)がびっしり。 涼しげで綺麗だなと思ったけれど世界の侵略的外来種ワースト100の一つなんだってね。ここナイヴァシャ湖でも問題になっているらしい。

ウォーターバックがホテイアオイの葉をムシャムシャ食べていた。ウォーターバックは平気で水の中に入るからウォーターバックというのだと教えてもらった。ライオンなどの捕食者が接近したときに、サッと水の中に逃げる。でも、水の中にはカバがいるんじゃ?肉食のライオンと違って草食のカバは、縄張りに侵入して怒らせない限り大丈夫ということなのだろうか?とにかく、ナイヴァシャ湖付近にはウォーターバックがたくさんいてホテイアオイを食べてくれている。増殖のスピードの方が速そうだけれど。

 

ボートを降りた後は、別のガイドさんと一緒に湖の周りを歩き、陸の動物を観察した。ケニアではとにかく、何をするにもガイドさんをつけるように言われる。いろいろ説明してくれるのはありがたいけれど、その都度チップをお渡しするので、チリも積もればでそれなりの出費になる。

ウォーターバックのボス

ガイドさんによると、強いオスは水辺の良い場所に縄張りを持ち、メスの群れを引き寄せる。しかし、ずっとボス(territorial bull)でいられるわけではなく、チャレンジャーの他のオスが闘いを挑んで来ることがある。闘いに敗れるとボスは交代し、負けた元ボスは群れの外に追いやられるのだという。

「ウォーターバックの鼻のかたちはハート形なんですよ」と言われてよく見ると、

ほんとだ!かわいい。

バッファローもたくさんいた。レクリエーション客が普通に歩く場所なのに、危ない生き物たちが普通にいるなあ。

地面のあちこちに大きな穴が空いていた。「イボイノシシがシロアリ掘り出して食べるんです」

これはカバの寝ぐら。糞でマーキングしてある。昼間は水の中にいるカバたちは、日が暮れると岸に上がって来る。のっそりしてそうな体型だけれど、陸に上がると意外とすごいスピードで歩く動くらしいのだ。

カバの足跡があった。4本の指の跡がくっきり。ナイバシャ湖の湖畔にはロッジが並んでいる。夜間にロッジの敷地を出て、湖の周りをウロウロするのは危険だ。サファリガイドさんの言うことを聞かずに勝手に出かけた観光客がカバに襲われて亡くなったケースがあるらしい。おお、こわこわ。ほんと、カバには気をつけよう。