ドイツ最北端の島、ズィルト島。ドイツに住んでいる人でズィルト島の名を知らない人はいないだろう。でも、私は一度もズィルト島へ行ったことがなかった。高級ビーチリゾートのイメージが強くて、私の路線じゃないなあと敬遠していたのだ。気が変わったのは、モールズム崖(Morsum Kliff)という国に指定されたジオトープが存在すると知ったから。ジオトープと言われると、俄然、気になってしまうのである。
ズィルト島はデンマークとの国境を跨ぎ、島の西側が北海に向かって弓なりに張り出した特殊な地形をしている。ドイツ本土からは海に向かって伸びるヒンデンブルク築堤と呼ばれる堤防を電車で渡ることができる。島の東側、つまり本土との間には干潟が広がっている。広大な干潟の上を電車で走るというのは、とても素晴らしい体験だった。車窓の外の景色にワクワクしながら、これだけでもズィルト島に来た甲斐があったと思うほどだった。
ズィルト島は風と波が運んできた砂が積もってできた砂丘の島だ。北海から浜辺に打ち寄せられた砂が風で内陸へと運ばれ、降り積もって丘となる。そうしてできたゆるやかな曲線を描く砂丘が、島の広範囲を覆っている。砂丘はやがてこの波と風のプロセスは現在も続いていて、ズィルト島の地形は変化し続けている。西側にあるビーチの砂もどんどん削られ、運ばれていくので、定期的に海底から運んで来た砂を補充しなければビーチを維持できないほどだ。

砂丘の表面の大部分は、草やコケ・ハマナスなどの低木などで覆われ、固定されている。砂が露出している部分では砂の移動が続いている。
そんなダイナミックな砂の島、ズィルト島だけれど、厚い砂の層の下には、島の土台となる地層がある。それは、ザーレ氷期にスカンジナビアから南下して来た氷河によって運ばれて来た、礫・砂・粘土などから成る堆積物だ。そして、そのさらに下には氷期以前の地層が存在する。島のごく一部に、地下深くに押し込まれた太古の地層がむき出しになっているエリアがある。それがモールズム崖なのだ。
モルズム崖は、島の東の端、つまりヒンデンブルク築堤を渡り切って島に上陸してすぐのところにある。ハイキングルートの出発点までは、モルズム駅からおよそ2km。バスもあるけれど頻繁には来ないので、30分くらいかけて歩いた。
ジオトープの説明パネルのある駐車場からスタートして、展望台までは約1.7km。さらに崖の上を歩くルートがある。

展望台から東側を眺めたところ

東に向かってハイキングルートをしばらく歩き、振り返って西側を眺める。

ドローンで撮影
北の海岸に沿っておよそ2kmに渡って続くモールズム崖の地層はカラフルだ。黒っぽい地層、赤茶色の砂、真っ白な砂。それらが斜めに連続して露出している。一番古いのは黒い地層で約1100万~530万年前、この地が暖かい海だった頃に堆積した雲母粘土(Glimmerton)だ。赤茶色のは、530万~180万年前に波打ち岸に堆積したリモナイト砂岩(Limonitsandstein)。白いのは、海が西へと退き、ズィルトが陸地となった約350万年前にスカンジナビアやバルト地方から川が運んで来たカオリンサンド(Kaolinsand)だ。もっと細かく見ると、この3つの地層の間にはオレンジ色の砂や茶色の砂の層もある。


氷期に突入する以前、これらの地層は水平に積み重なっていたが、約40万年前、エルスター氷期の氷河がこの地域を通過した。そのときの強い圧力で地面にヒビが入り、地層がバラバラの岩塊に分かれて、前方にせり上がった。氷がとけた後には、傾いた大きな地層ブロックが階段のようにずれて残った。


図は現地の説明パネルを撮影したもの
何百万年も前の地層を押し上げて見えるようにした。モールズム崖は、氷河の力によって現れた地層のタイムマシーンだと言えるだろう。やっぱり、氷河ってすごいなあ。
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