(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

ボケテ高原3日目。この日はTree Trek Adventure Parkというところで吊り橋ツアーに参加することにした。吊り橋を渡りながらハイキングするツアーで、ネイチャーガイドさんが動植物について説明してくれるという。

現地に着き、受付でツアーに申し込もうとすると、「今、最初のツアーが出たばかりなので、次は1時間後です」と言われてしまった。1時間も待つのかあとがっかりしていたら、別の男性が隣の部屋から入って来た。受付係りはその男性と何やら話している。そして受付の人が急に言った。「やっぱり今すぐツアーできます。彼について行って」。わけがわからないが、出発できると聞いてついて行った。

「私、今日は本当はガイドの担当じゃないんですが、ちょうどヒマなので特別に案内しますよ。他の参加者と一緒の大きなグループより、あなた達だけの方がいいでしょ?」どうやらスケジュール外のプライベートツアーを通常料金でやってくださるということらしい。ついている。お願いすることにした。

ハイキングするのはLa Amistad Friendship International Parkといって、コスタ・リカとパナマにまたがり、両国が共同管理している自然公園だ。渡る吊り橋は全部で6つ。最初の橋の高さは40m、長さは135m。

怖そうに見えるかもしれないけれど、ジャングルの中は植物が生い茂っていて地面が見えないから、全く怖くない。ガイドさんがいろいろな植物や動物について説明してくれるのを聞きながらの散策はとても楽しかった。ガイドさんがいなければ気づかずに通り過ぎてしまうものばかり。但し、山を登りながら写真を撮るので精一杯でメモを取ることができなかったので、教えてもらった植物や虫の名前全部忘れてしまった。とても残念。

「この蜘蛛の巣を見てください。蜘蛛がまるで小枝のようでしょう?」なるほど擬態しているのか。面白い。

綺麗な花がたくさん咲いている。「これ、花びらがずいぶん硬いね」と花を触りながら娘が言う。「それは本当の花びらじゃないんですよ。本当の花はこっち」

歩いていると頭の上をいろんな鳥が飛んでいく。ガイドさんによると、鳥は赤、黄色、白しか認知できないので、ジャングルを歩くときにそれらの色の服を着ていると花と勘違いして鳥が寄って来やすくなるそうだ。

ガイドさんは今度は地面近くを指差した。斜面の下の方の少し窪んだところに細い透明な糸のようなものが張られている。

「これは蜘蛛の巣のようなものだけど、蜘蛛によるものではないんです。ほら、この白い細長いもの、この虫が蜘蛛のようにネバネバした糸を出しているんですよ。この虫は夜になると光ります」

ツマジロスカシマダラ (Glasswing butterfly)

うまく写真が撮れなかったが、羽がほぼ透明で向こうが透けて見える綺麗な蝶がいた。

2つ目の吊り橋を渡り終わって少し歩いたところで、ガイドさんが「上を見て。ケツァールがいますよ」と言った。目を凝らして指さされたあたりを見ると、枝の間に赤と鮮やかな青をした小さな何かがいるのが見えた。双眼鏡で見ると、本当にケツァール!?ケツァールは世界一美しい、幻の鳥と言われている鳥だ。それがそんなに簡単に見られるとは驚きである。写真を撮ろうとしたけれど、望遠レンズでも遠くてダメだった。「尾がありませんね。売り物にするために尾を切ってしまう人がいるんですよ。だから、尾のないケツァールが多いんです」

上から先に出発したハイキング客のグループが戻って来てすれ違った。「あの方達が予約したのはハーフツアーだから、3つ目の吊り橋で引き返して来たんですね。私たちは6つ全部渡りましょう」。

3つ目、4つ目と高度を上げながら吊り橋を渡って行く。4つ目の橋の高さは70m。吊り橋から見下ろすジャングルは素晴らしい。そして吊り橋から眺める滝も。

「あのオレンジの実は食べられますか?」

「あれはまだ熟していませんね。サルの好物ですよ」

「こっちは熟している」ガイドさんは一粒つまんで口に入れた。「あなた達も食べてみて」。食べてみるとそれほど甘くはなく、トマトのような味がする。でも、あ、あれっ?「後味がピリッとするでしょう?」かすかに唐辛子のようなスパイシーな後味が残った。

「あ、Black guanがいる。ほら、あそこ!」見ると、黒くて大きな鳥がいた。「あなた達、今日はずいぶんラッキーですね。バードウォッチングツアーでもblack guanはなかなか見られないんですよ」。日本語名はクロシャクケイというらしい。こちらも残念ながら写真は撮れず。

さらにいろいろなシダ植物や蘭などを見ながら歩いて行く。ふと足元に目をやると、赤いキノコが生えていた。「これ、毒キノコ?」

「そう。毒キノコです。ちょっと待って」。ガイドさんは小枝を2本拾い、キノコの赤い部分を両側から挟んでぎゅっと押した。

真ん中からパフッと胞子が出てくるのが見えた。「吸い込んじゃダメ。吸い込むと象が空を飛びますよ」「象が空を飛ぶ?幻覚を見るってことですか?」「そう、このキノコは幻覚作用のある毒キノコなんです」。あたりを見回すとあっちにもこっちにも生えている。

「あれえ?カニだ!何でジャングルにカニが?」驚く娘。「サワガニだね」と私。でも、ずいぶん高いところにまでいるんだなあ。

「さあ、一番高い場所に着きましたよ」。ここがトレイルの頂点。なんてクールな場所なんだろう!

さあ、ここからは下り坂だ。

「わ、見て。毛虫がこんなにびっしり!」「毒ありますか?」「これは毒なしだから触っても大丈夫。柔らかいですよ」。そっと触ると、毛がふわふわだ。小さなヘビやトカゲもいた。

マラカイトハリトカゲ (Sceloporus malachiticus)?

いろんなものを見てご機嫌な私たち。5つ目の吊り橋を渡っている時だった。先頭を歩いていたガイドさんが急に血相を変えて振り返った。口に人差し指を当てて「静かに」の合図をしてから吊り橋の下の茂みを指差す。「プーマがいる」。

ええっ!プーマ!?まさか、聞き間違いだよね?

「あそこ。見えますか?プーマですよ」。必死で目を凝らすが、見えない。どこ?

するとガサガサっと葉の動く音がし、茶色い大きな猫が茂みの中を走るのが見えた。呆然とする私たち。

「す、すごい、、、、」。ジャングルの奥地でもないのに、サファリツアーでもないのに、野生のプーマに遭遇するなんてことがあり得るんだろうか。信じられない。

ガイドさんもしばらく感慨深そうに橋の上に立ち尽くしている。

「あなた達は本当にラッキーですよ。私はよく一人でジャングルを散策しますが、いろんな動物を見つけることができます。でも、お客さんと一緒のときには難しい。あのプーマは多分、今夜この辺りで寝ていたんでしょう。あなた達の前に出発したグループ、途中で引き返しましたよね。もし彼らがここまで来ていたら、その時点でプーマは逃げてしまっていたと思います。だから、あなた達はラッキーだった。私がなぜプーマに気づいたと思いますか。かすかに唸り声が聞こえたんですよ」

驚きと感動で言葉が出て来ない。「ワオ、、、」と言いながら三人、顔を見合わせるばかり。ただの吊り橋ツアーだと思って申し込んだのが、記念すべき特別なものとなった。優秀なガイドさんに何度もお礼を言い、チップを多めに渡してお別れした。

ああ、本当に素晴らしい体験だった。パナマ、なんて素敵なところなんだ。

 

 

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

前回の記事ではLost Waterfalls Trailを歩いたことについて書いた。これはその日の続きである。

ハイキングを完了して、「ああ、疲れた〜」と言いながら宿に戻ったが、部屋に着くか着かないかのうちに娘が「じゃ、今度は何する?」と言うではないか。彼らのエネルギー量は半端ではない。休むということを知らない人たちなのだ。私も精神的には活発な方と思っているけれど、そのわりに体力がないのが悩み。

「え、また出かける??」と驚く私に「温泉があるみたいだから行こうよ」と娘。温泉か、うん、それなら行ってもいいかな。動き回るわけじゃないしね。夫も温泉に入りたいという。私は出かけることに同意した。

地図で見ると温泉はCalderaというところにある。Palo Altoから25kmくらいだろうか。車だから大した距離ではない。しかし、宿の人に聞くと「あなたたちの車で近くまで行けないこともないけど、道が悪くて大変ですよ」と言われる。そう言われてひるむ夫ではない。運転するのは自分ではないので、私は何も言わずに車に乗り込んだ。

しかし、思った以上に酷い道だった。大きな石がごろごろした凸凹道をソロソロと進まねばならず、かなり時間がかかった。どうにかこうにかCalderaまで辿り着いたが、道はますます悪くなり、ついにこの状態に。

さすがにこれ以上は無理だろう。レンタカーを壊してもいけない。ここで車を停め、この先は歩いて行くことにした。またハイキングか、、、。

どんどん凄くなる。こんな道を10分ほど歩くと立て看板があった。

私有地のため立ち入り禁止。でも、温泉に入りたいなら2ドル払えばいいらしい。看板の横には民家があり、庭にいたおじさんがこちらにやって来た。温泉に入りたいことを伝え一人2ドル払うと、道順を教えてくれた。温泉は全部で4つあり、熱いのとぬるいのが二つずつ。と言ったと思うんだけれど、スペイン語なので正確に理解できたか自信がない。まあ行けばわかるだろうと、指さされた方向へ歩く。

森の中を少し歩くと芝生があり、石に囲まれた露天風呂が見えた。実際にはこの2倍の大きさで、すでに何人か人が入っている。外交的な娘は早速水着になって「ハロー」と彼らに仲間入り。アメリカ人だったので、お喋りに花が咲いた。ちなみにパナマでは英語はあまり通じないようだ。泊まっているPalo Altoの宿の経営者はアメリカ人でコミュニケーションに全く支障はないが、地元の人は英語が話せない人が多く、私と娘はドイツで習って来た下手なスペイン語で奮闘しているのである。

夫がドローンで撮影した写真。中央が露天風呂

こちらは二つ目の露天風呂。こちらも一つ目と同様、お湯はしっかり熱い。でも、外気温も高いので、とても長くは入っていられない。ぬるい方の温泉は川の方にあるというので、よくわからないが探しに行くことにする。

川縁に行くと、お湯が滝のように流れていた。そして、ぬるい温泉は「川の方」ではなく、川の中にあった。

中でくつろぐ夫と娘、そして米国人夫婦。この湯船?では温泉の熱いお湯と川の冷たい水がブレンドされ、いい具合の温度になっている。

河原にはヤギの群れがいた。ヒマそうに私たちの様子を観察している。さて、温泉にたっぷり浸かったことだし、そろそろ帰ろうか。

帰り道では孔雀の母子に遭遇。いろんな生き物がいて楽しいなあ。

車を停めてあった場所まで戻って初めて気づいたのだが、どうやら来るとき随分回り道をしてしまったらしい。帰りはそれほど酷い道路を走らずに済み、無事にボケテに戻って来た。でも、午前中は山登り、午後はドライブと温泉でもうクッタクタ。だけど、なんだか心地よい疲れだ。せっかくの休暇なのに何をそんなに疲れることをしているのかと言われるかもしれないけれど、昼間遊び倒して夜ぐっすり眠る、そんな休暇の過ごし方が嫌いではない。

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

ボケテ高原にやって来た目的の一つはハイキングだ。冷涼なドイツに住んでいる私たちにとって、熱帯雨林をハイキングするというのは本当に楽しいアクティビティなのである。ボケテ高原にはハイキングコースが豊富にあるが、まずはその中のLost Waterfalls Trailを歩くことにする。3つの滝のあるトレイルで、往復2時間くらいなので初級コースといっていいだろう。

朝、出発しようとしたら霧雨が降って来た。「雨だよ。どうする?」「構わん。行くぞ」。夫は雨でも実行するという。娘も怯むことなく、「行くしかないよ」と言うので出発することにした。6月のパナマは雨季である。雨季にも小雨季と大雨季があり、今は小雨季だからそんなにザアザア降られることはないだろうと思っていたのだが、Palo Altoに到着してからずっと霧雨が降ったり止んだりしている。後から知ったことには、これは雨季だからというよりもPalo Altoは常に雨がちなのだそうだ。ボケテタウンから3kmも離れていないが、熱帯雲雨林の入り口に位置していて霧雲がかかる範囲にある。だから、ボケテタウンでは晴れていてもPalo Altoまで北上すると急にシトシト雨が降ることが多いようだ。

トレイル入り口近くの駐車場に車を停め、15分くらい山を登ったところでコース入場料を払う。上の写真は頂上ではなく、入り口。この高さからさらに登るのだ。

防水のジャンバーを着てはいるけど、濡れるの嫌だなあ。そう思いながら歩き始めた。でも、実際に歩いてみると、ジャングルの中は大きな葉っぱが密集していてあまり雨が体に当たらないのと、汗をかいて内側からも湿って来るので、雨が降っていようがいまいがそのうちどうでも良くなった。

いやあ、やっぱりジャングルはワクワクする。ティーンエイジャーの頃は「疲れる」だの「暑い」だのと文句ばかり垂れてハイキングには参加したがらなかった娘も、ずんずん歩いていく。

道は良く整備されているけれど、雨で少しぬかるんでいて滑りやすい。スニーカーでも歩けないことはないが、ハイキングシューズがベター。

私たちが住んでいるドイツでは森の中を歩くのは国民的スポーツといっていいほどポピュラーなアクティビティで、「散歩」と称して2時間も3時間も日常的に歩く人もいる。ドイツの森を歩くのも楽しいけれど、熱帯の森は大きな葉があったり、見慣れない虫や鳥がいて刺激的である。

 

キダチチョウセンアサガオは南米原産

肝心の滝だが、3つとも無事に通過することができた。

夫と娘は滝壺で泳いだけど、水は冷たかったみたい。

雨が上がった

そんなわけで、雨に濡れながらも1本目のトレイルは無事に歩き切った。まだ少し時差ボケが残っていたこともあり、初級コースとはいえ、結構疲れた。だが、これはあくまで午前中のアクティビティで、午後の部もしっかりあるのだ。それについては次の記事で。

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

ボケテ高原のパロ・アルトに到着した翌朝、朝食の席で娘がその日のアクティビティを提案した。小さい頃からあちこち連れ回したせいか、大の旅行好きに成長した娘。やる気満々である。

「まずはコーヒー農園を見学に行こう」と娘は言う。ボケテ高原はコーヒーの産地で、アラビカ種だけでなく希少なゲイシャ種のコーヒーも栽培されていることで知られる。見学できるコーヒー農家は複数あるが、その中から娘がピックアップしたのはレリダ農園(Finca Lerida)だった。宿泊施設やレストランも併設するお洒落な農園だ。

パナマのゲイシャコーヒーについて、またレリダ農園についても農業の専門家である宮﨑大輔さんが以下の記事を書いていらっしゃるので、興味のある方は詳しくは宮﨑さんの記事を読んでいただければと思う。

パナマ産ゲイシャコーヒーの特徴!中米ボケテ高原のコーヒーツアーで学んだ栽培方法、豆の精製・焙煎技術、値段

ゲイシャコーヒーを育てる中米パナマ・ボケテ高原のレリダ農園の生産・加工・輸入・テイスティング方法

 

コーヒーの収穫期は11月から3月までだそうで、今は6月だから本来は収穫期ではなくツアーの内容は少し違っていたようだ。レリダ農園では50ヘクタールの畑にアラビカ種のカトゥアイという品種とゲイシャ種の2種類を栽培している。カトゥアイは標高の高いところで、ゲイシャは標高1600mくらいの低いところで栽培されているが、ツアーではゲイシャ種の畑を歩きながら説明を聞いた。

ゲイシャ種はエチオピア原産の品種で、とても繊細で栽培が難しい。労力に見合うほどの量が収穫できないので、かつては誰も栽培したがらなかったそうだ。しかし、お茶に似た軽い味わいとフルーティな香りが中国人などアジア人に受け、人気が出た。レリダ農園ではコーヒー畑に他の木を一緒に植え、コーヒーの木に当たる日射量を最適に保ち、風が当たりすぎないように調整するなど、繊細なゲイシャ種を手をかけて栽培している。

収穫期ではないけれど、木には花があり、実がなっていた。

その年の最初の強い雨の後、コーヒーの木は花を咲かせ、花が散った後、枝に節ができる。実はその節になる。青い実が熟れて赤くなったら収穫だ。ところが、近年、異常気象が続き雨が降りすぎたため、ストレスでコーヒーのライフサイクルが狂ってしまっているそうだ。

さらには葉っぱが寄生虫にやられ、カビが生えて写真のように黒ずんでしまった木がたくさんあった。大変なダメージだ。しかし、やみくもに農薬を散布すると益虫も一緒に死んでしまう。なるべく農薬の量を抑えながら効果的にカビの問題を解決しようと栽培ロットごとに様々な方法を試しているそうだ。農業って大変だなあ。

熟れた実(チェリーと呼ぶ)を潰して押し出した生豆にはヌメヌメしたゼリー状のものが付いている。伝統的なコーヒー豆の処理法は水洗い法といい、ゼリー状のものを洗い流してから3週間ほどかけて乾燥させ、皮を剥く。でも、前述のように異常気象で本来は収穫期でない時期に実がなったり、コーヒーの実を摘む労働者が不足していて摘みきれない実が熟しすぎ、美味しくなくなってしまうという問題があるそうだ。

そこで、水洗い法の他の方法も取られるようになった。その一つはハニー法といって甘いゼリー状のものを洗い流さないまま乾燥させる方法で、ゼリーの甘みが残るのでハニー法と呼ばれるそうだ。もう一つはナチュラル法で、実を丸ごと乾燥させ、後から機械で割って豆を取り出す。これらの方法は人手不足による苦肉の策だったが、出来上がったコーヒー豆はそれぞれ味わいが違い、飲み比べて違いを楽しめるのがセールスポイントになっているという。

こちらの豆はゲイシャではなくカトゥアイ。熟れると黄色くなる種類もある。コーヒーの実の品質は大きさ、色、密度などで決まる。グレードの高いものは主に輸出され、グレードの低いものは地元で消費される。高校を卒業してから一人で1ヶ月半、エクアドルに滞在したことのある娘は「エクアドルでも美味しいコーヒーはヨーロッパなどに輸出されて、地元で飲むのはセカンドクラスだと聞いたよ」と頷いた。

他にもコーヒーの歴史など面白い話をいろいろ聞かせてもらった後、ティスティングをすることになった。水洗い法、ハニー法、ナチュラル法のそれぞれで精製したカトゥアイと水洗い法のゲイシャの4種を比べるという。

コーヒーのティスティングは初めてで、ただ飲み比べるだけかと思ったら、ローストした豆の状態での香りの違い、挽いた豆の香りの違い、お湯に溶いた状態での香りの違い、そして飲んでみての味と香りの違いと4段階で比較するという。それぞれどう違うか、コメントしてくださいとガイドさんに言われたので戸惑う。水洗い法の豆が一番普通のコーヒーらしく、その他はそれぞれ香りが違うのはわかるけれど、言葉で説明するのは難しい。いろいろな香りの書かれた円チャートを指差さされ、「さあ、この中のどの香りを感じますか?」と聞かれる。「えーと、ハニー法の豆はちょっとシナモンっぽい香り?」「シトラス系の香りもしませんか?」「ナチュラル法はウッディな香りかな」。コーヒー豆ソムリエごっこのようでなかなか楽しい。

ゲイシャ種の豆は明らかに異なる香りがした。コーヒーというよりも軽くて確かにお茶のよう。そしてフルーティでちょっとフローラルな香りがする。すごーーーくいい香り!希少だからありがたがるわけではないけど、なんだかすごく気に入ってしまった。世界で最も高いコーヒーの一つだそうで、パナマで飲む機会が得られてよかった。

 

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

パナマシティのアルブロック国内空港でレンタカーを借り、いよいよボケテ高原に向けて出発する。ボケテまではパナマシティからパンアメリカン・ハイウェイでチリキ県最大の町(と言っても人口12万人程度だが)Davidまで行き、そこから約35km北上するだけなのでルートとしては単純だ。さすが北アメリカから南アメリカを縦断するパンアメリカン・ハイウェイだけあって道路はよく整備されていて快適だ。

と思ったものの、状態が良かったのはパナマシティを出発してしばらくの間だけで、そのうち「これ本当にハイウェイなの?」というコンディションとなった。レンタカー屋の人に「ボケテまでどのくらい時間かかりますかね?」と聞いたとき、「そうですね。(夫に向かって)あなただったら7、8時間かかるかな。私なら5時間で行っちゃうけど。ヒヒヒ」と言われ、夫は「なんでオレだったらそんなに時間かかるんだよ」とムッとしていたが、この道路状態では結構時間がかかるかもしれない。とはいえ、私たちが住んでいるドイツ東部はかなり酷い道路がたくさんあるので慣れていて、まあ、苦痛を感じるほどではなかった。

道路沿いに民家はたくさんあるのだが、町らしい町はなく、似たような田舎の景色が延々と続いた。ハイウェイ沿いは森林はすっかり切り開かれている。4時間くらい車を走らせていたらお腹が空いてきた。「どっかのレストランに入ろうよ」と誰からともなく言い出したが、なかなか適当な店が見つからない。

「PIOPIOっていう看板をさっきから何度か見たね。チェーン店かな?」「じゃ、次にPIOPIOがあったら入る?」娘がスマホでPIOPIOを検索する。「ファストフードみたい」「どれどれ?うーん、マクドナルドとケンタッキーを足して2で割ったような店だね」。あまりピンと来ない。もっと他の店はないのだろうか。グズグズしていたら、少し大きめの町らしいSantiagoに到達した。「Santiago Mallって書いてあるよ。モールならフードコートがあるんじゃない?」車を停め、中に入ると大きくて新しいショッピングモールである。しかし、フードコートは、、、、。

ジャンクフードばっかり、、、。まあ、田舎のモールだからこんなものかな。もうちょっとパナマらしい食べ物を期待していたのだが、お腹が空いていたので文句を言わず適当なものを買って食べた。しかし、その数百メートル先にパン屋があり、エンパナーダなど売っていた。しまった!だったら最初からパン屋を探せば良かった。

サンチャゴを通過してしばらくしたら、突然景色が変わった。民家がまばらになり、青々とした森が広がった。それとほぼ同時になぜか道路の状態も再び良くなりスイスイと車を飛ばすことができたので、まもなくDavidの町に着いた。そこからボケテの町までも快適だった。

ボケテ高原

山間の小さな町ボケテはAlto Boqueteとその少し北のBaño Boqueteに分かれている。Baño Boqueteの方が栄えていて、お洒落な西洋レストランやカフェがたくさん並んでいる。しかし、私たちの宿はそのどちらのエリアでもなく、さらに数キロ北上したPalo Altoというエリアだ。車があるのだから、中心部から少し離れたところでもいいかなと思ったのである。

ようやく到着した宿はこんな川の側の野趣あるエリアでとても気に入った。

これから1週間、楽しく過ごせそうだ。

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

パナマ運河を見学した後、再びUberを利用してパナマシティに戻った。次に訪れるのは、もしパナマに行くことがあれば必ず見たいと思っていた博物館、Biomuseoだ。生物多様性博物館とも呼ばれている。

そもそもパナマに来た目的は主にパナマの自然を楽しむことである。熱帯の国パナマは私の住んでいるドイツや故郷日本では見られない動植物が豊富に違いない。以前訪れたことのあるオーストラリアやタイ、インドネシア、コスタ・リカの熱帯雨林でカラフルな鳥や昆虫、花を見て感動したが、あらかじめ現地の生態系について少しでも知っておけばより楽しめるのではないか。そう思って、Biomuseoをまず見ておくことにしたのだ。

Biomuseoは2014年にオープンしたばかりの博物館で、アマドール・コースウェイという人工の細長い半島にある。見ての通り、目を見張る斬新な設計のカラフルな建物だ。設計者はフランク・ゲーリー。8つのテーマのギャラリーからなる建物を美しい公園が囲んでいる。

最初のギャラリーは生物多様性ギャラリー。パナマの国土は南北アメリカ大陸を繋ぐ東西に細長く伸びた地峡で、その地理条件がパナマの生態系をとても特徴的にしている。熱帯雨林と熱帯雲霧林、マングローブの森には1000種を超える蘭、約150種のパイナップル科植物、100種以上のシダ植物、そして数多くのフィロデンドロン、ヘリコニア、ユリ科の植物が生育する。パナマが原産の木は300種を超え、中央ヨーロッパの6倍にも及ぶそうだ。動物も哺乳類だけでおよそ240種、鳥や虫や魚の種類は想像を超える豊かさだろう。しかし、森林破壊や動物の密猟などで多様性がどんどん失われていっている。生物多様性ギャラリーではパナマにどのような動植物が生息し、それぞれがどの程度絶滅の脅威にさらされているのかをパネル展示で知ることができる。

 

シアターPanamaramaではパナマの自然を3面及び床面の大画面に映し出される映像で感じることができる。これ、すごく良かった。

 

地峡ギャラリー(Building the Bridge)の展示はパナマの国土がどのようにして形作られたかを示している。かつて南北アメリカ大陸の間には隙間があり、太平洋と大西洋は繋がっていた。太平洋プレートがカリブプレートの下に沈み込んでいく圧力と熱によって海底に形成された火山が海面から突き出して島となった。次々と現れる島々が次第に繋がってできたのがパナマだ。

約7000万年前の海底にあった枕状溶岩

約300万年前、パナマの国土が形成され南北アメリカが陸続きになったことで、それぞれの大陸の動物が大規模に移動して種の交換が起こった。これを生物学ではアメリカ大陸間大交差と呼ぶようだ。第4のギャラリー「The Worlds Collide」では北から移動して来た動物たちと南から移動して来た動物たちがパナマ地峡で出会う様子がダイナミックに示されている。なるほど、生物多様性博物館がパナマにあるもう一つの理由が理解できた。

ワクワクするディスプレイ

 

5つ目のギャラリーである建物の中央広場で人類が登場する。パナマに辿り着いた人々がどのように土地を利用し生活して行ったかを示す考古学及び文化についての展示だ。

 

海のギャラリー。パナマは太平洋とカリブ海に挟まれているが、二つの大きな水槽がそれぞれの生態系を示している。カリブ海と太平洋では同じ海でもいろいろな違いがある。カリブ海のサンゴ礁は様々な生息環境を提供するため、魚の種類が多い。透明度の高い海水の中では魚は主に視覚情報を使ってパートナーを探す。だからカリブ海の魚はカラフルだ。派手な模様は色とりどりのサンゴの間でのカムフラージュにも役立つ。それに比べ、太平洋の魚は見た目が地味だ。周辺環境がわりあい均等なので、多様性がカリブ海よりも低い。しかし、太平洋の魚の多くは集団で泳ぐため、それぞれの種の個体数が多い。

 

こちらがカリブ海の環境で

こちらが太平洋の環境

海の中って本当に綺麗で面白いなあ。私はスノーケルしかできないので、ダイビングは憧れである。

Biomuseoにはその他に生態系のネットワークを示す展示、パナマの生態系と世界の生態系のネットワークを示す展示がある。また建物の外の公園ではパナマの植物や生き物を眺めながら散策できて、最高である。

これでパナマシティで絶対に見たかった場所2つを見ることができたので、首都を離れ、パナマを探検することにしよう。アルブロック国内空港でレンタカーを借り、さあ出発だ。目指すはコスタリカとの国境近く、ボケテ高原である。

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

ドイツの人気絵本作家、ヤノッシュの作品に”Oh, wie schön ist Panama!(おお、パナマはなんて美しい)”というものがある。味わい深い可愛いイラストとユーモラスな文章が魅力的なヤノッシュの絵本の中で最も好きなものの一つだ。日本語のタイトルは「夢見るパナマ - きみのパナマを探しにいこう」。なんとも素敵なタイトルである。

パナマ。どんな国なのだろうか。本を初めて手にしたときから、いつか行ってみたいと思っていた。

2019年6月いよいよそのときが来た。私たちのパナマを探しにいくのである。ベルリン・テーゲル空港からアムステルダム経由でパナマシティへ飛ぶ。家を出発して約11時間後、トクメン国際空港に到着し、予約してあった市内のホテルに向かった。

パナマシティは高層ビルが立ち並ぶ大都会だ。ホテルの部屋の窓からの眺めに驚く娘。「ここは東京?」

時差で結構疲れていたので、その日の夕食はその辺で適当に済ませて寝る。

翌朝は時差ボケで早くに目が覚めた。朝食はホテルの朝食ルームで。パンにハムやソーセージ、チーズ、卵料理といった洋風の朝食の他にパナマの食べ物とみられるものがいくつかあったので食べてみる。お皿の右上のちょっと焦げ目のついた円盤状のものはトウモロコシのトルティーヤ、その横の長細いものはキャッサバ芋のフライ、左のものは茹でたキャッサバらしい。これらは後から調べてわかったことで、食べているときには自分が何を食べているのかわからなかった。トルティーヤは少しボソボソとした食感で、キャッサバフライはフライドポテトのよう、茹でキャッサバは味の薄い焼き芋という感じである。3つとも、美味しくないわけではないがすごく美味しいというわけでもなく、あまり味がしない。

さて、朝ごはんを食べたら、まずはパナマシティで是非とも見たい場所の一つ、パナマ運河に向けて出発だ。パナマシティ市内の移動はUberがとても便利である。スマホアプリで現在地と目的地を設定すると数分で車がやって来る。私たちはパナマ運河の水門の一つ、パナマシティから北西約20kmの地点にあるミラフローレス(Miraflores)閘門にあるビジターセンターに向かった。

ビジターセンターの展望台から水門を眺める。

 

 

パナマ運河は2016年に拡張工事が行われ、このミラフローレス閘門のやや南西に新たにココリ閘門が作られた。写真の水路は古い狭い方で、ココリ閘門の方の水路はもっとずっと広いらしいけれど、残念ながらビジターセンターの展望台からはほとんど見えない。新しい水路を見学するなら太平洋側ではなくカリブ海側のアグア・クララ閘門のビジターセンターに行くといいようだ。

パナマ運河の建設の歴史やミラフローレス閘門の仕組みについては宮﨑大輔さんがブログですでに詳しく書いていらっしゃるので、ビジターセンターの展示について少し書いておこう。

ビジターセンターの展示はパナマ運河が建設されるまでの苦難の歴史から始まる。1534年にスペイン王カルロス1世(神聖なローマ帝国皇帝カール5世)が運河建設のための調査を指示して以来、フランスが工事に着手して失敗し、米国が1914年についに運河を開通させるまでの、莫大な資金が注ぎ込まれ多くの命が失われることになった巨大プロジェクトの経緯を知ることができる。

運河建設のためにスコットランドで造られ、1912年に浚渫作業を開始したバケット浚渫船Corozal。52個のバケットで40分足らずの時間に1000トンもの土砂をすくい上げることができたとのこと。

これは運河の開通後、初めて運河を通行したSS Ancon。

 

ビジターセンターではパナマ運河の周辺の生態系についても展示スペースが設けられていて、興味深かった。運河流域にはチャグレス川国立公園(Chagres National Park)、ソベラニア国立公園(Soberania National Park)、カミーノ・デ・クルーセス国立公園(Camino de Cruces National Park)、アルトス・デ・カンパナ国立公園(Altos de Campana National Park)やスミソニアン熱帯研究所の運営するバロ・コロラド島の熱帯林など多くの自然保護区があり、保全活動が行われている。チャグレス川はパナマ運河の運用に必要な水の40%をもたらすだけでなく、合わせてパナマの人口の50%ほどを占めるパナマシティとコロン市に飲料水をもたらす大切な川だ。チャグレス国立公園内にはジャガーやオウギワシも生息しているという。

展示されていたゴキブリ。ゴキブリは大嫌い!のはずなのだけれど、私が知っているゴキブリとかなり違う姿なので、珍しくて、つい写真を取ってしまった。自分の家に出没する可能性がないとわかっていれば、意外と気持ち悪さは感じないものである。名前はGiant Cockroachだったかな。

 

パナマ運河は2016年に拡張工事が完成している。拡張工事をするかどうかは国民投票で決めたらしい。ビジターセンター内の新しい水路に関する展示スペースはとても賑わっていて、パナマ国民がこのプロジェクトをとても誇りに思っていることが窺えた。

拡張工事に使われた世界で最もパワフルな浚渫船D´Artagnan号。拡張工事により、これまでよりも大きな船が運河を通過できるようになった。パナマ運河を通過できる船の最大サイズを「パナマックス」と呼ぶそうだが、新しいパナマックスとして従来の約 5,000 TEU から 12,000 TEUへとサイズが改定されている。全幅は17mも広くなったというからかなりのスケールアップだね。

残念ながらビジターセンターに行ったのは船が通過する時間帯ではなかったので、船は見られなかったけれど、パナマの象徴ともいえるパナマ運河の見学で旅のスタートを切ったのは良いアイディアだった気がする。パナマシティでは是非とも見たいものがもう一つあった。それについては次の記事で。