(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

私の夫と娘はネイチャー派で休暇は自然の中で過ごすのが好き、特に熱帯が大好きだ。私は昔はどちらかというと文化的な旅が好きだったのだが、彼らと一緒に過ごすうちにだんだん感化されて自然の中での休暇が大好きになった。

熱帯は楽しい。トロピカルな海で泳ぐのも大好きだし、日本やドイツでは見られない珍しい植物や生き物が見られる喜びは本当に大きい。私は果物アレルギーで果物は普段全く食べられないのだが、熱帯に行くと、なぜか一時的に果物アレルギーが治ってしまうのだ。熱帯に到着した瞬間からマンゴーやパパイヤやパイナップルをたらふく食べられる。だから、熱帯は私にとってパラダイスである。

とはいえ、熱帯には嬉しくないことも少なからずある。まず、虫が多い。私は虫は見る分には平気というか、むしろ好きだけれど、刺されるのはごめんだ。熱帯にはマラリアなど病気を媒介する虫もいるから注意しなくちゃならない。今回の旅行は蚊が多くなる雨季ということもあり、熱帯仕様の蚊除けスプレーと、万が一マラリアにかかったときのための薬を医者に処方してもらい、持っていった。

ボケテ高原は標高が高いせいか思ったほど蚊がいないなと安心していたのだが、ある朝、起きると全身に赤いポツポツができている。蚊に刺されたときほどではないものの、痒みがある。ベッドに何かいるのか?しかし、一緒のベッドに寝ていた夫は1箇所も刺されていない。「虫刺されじゃなくて、体の内側から来るものなんじゃない?」と夫は気味の悪いことを言う。でも、蕁麻疹が出るようなものを食べた記憶もないし、、。一体なんだろう?不思議に思ってツイートすると、青年海外協力隊員としてパナマに滞在されたご経験のある宮﨑大輔さんが、このように教えてくださった。

チトラに噛まれたのだろうか。ありえない話ではない。あるいは、動物保護センターで動物を触ったから、もしかしてノミを移されたのかもしれない。2、3日様子を見たが改善しないので、薬局で薬を買う羽目にになった。幸い、薬局で買った薬がよく効いて最初に刺された(噛まれた?)分は良くなったものの、その後も次々と蚊に刺されるので、旅行中はずっと身体中、虫刺され跡だらけだった。

熱帯は湿度も辛い。気温は30度前後だったので暑さはそれほどでもなかったが、とにかく尋常ではない湿度の高さである。泊まった部屋には天井のファンかエアコンがあるから耐えられないほどではないけれど、問題は洗濯物で、洗ったものを干しておいても全然乾かない。日中、外を歩き回って汗をかいたり海で泳いだりするので汚れ物はどんどん溜まっていく。でも、洗っても乾かないので湿ったまま着るしかない

最悪なのは靴だった。海へ行くときはビーチサンダルで良いとして、ジャングルの中を歩き回るにはしっかりしたトレッキングシューズが必要である。最低限、スニーカーは履かないと、とても歩けない。道は湿っており、雨の後はぬかるみ、すぐに靴がドロドロになってしまう。川が流れていて靴のままバシャバシャと歩いて渡らなければならないこともあるから、毎日のように靴が濡れる。一旦靴が濡れるとなかなか乾かないので、それをしばらく車の中に放置しようものなら悪臭を放って大変なことになる。もちろん、泥や砂、汚れた服や靴で車もどんどん汚くなっていく

そして、当然、自然の中は危険が多い

ある日、ドライブしていると道がぬかるんでいて、これ以上は車で進めなくなった。夫は「この先がどうなってるか、オレが一人で見てくるからここで待っていろ」と私と娘を車の中に残して夫一人で探検に行った。しばらくして戻った夫は「石の橋があって、その下が洞窟になっていたよ」と報告してくれた。

洞窟の中に入ってみたいけれど、雨が降っているし装備も用意していないのでやめておく、と夫。安全かどうかわからない場所では夫がまず一人で行って安全確認をし、問題がなければ私と娘を迎えに来るというのが夫の決めたルールである。夫は車の運転が得意で軍隊経験もあるので頼りになる。私も冒険好きだけど、一人で熱帯の自然の中を歩くのはリスクが大き過ぎる。

そんなわけで熱帯での自然探検はとても楽しいけれど、不快感もそれなりに伴うのである。まあ、とにかく汚いのだ。私たちは別に汚いのが好きというわけではないのだけれど、自然探検にはそれ以上に楽しいことがたっぷりあるから多少の不快さは許容しているというわけなのだ。

乾季に旅行すると比較的快適に過ごせるけれど、パナマは年間2/3が雨季ということもあり、その他いろんな事情もあって今回は乾季に来ることができなかった。雨季でも一日中ザアザア降るわけではないし、今回は3週間の日程なので雨が上がっている間に活動すれば十分楽しめるけれど、日程に余裕がない場合は、やはり乾季を選んだ方が良いと思う

とはいえ、雨季には雨季の良さもある。コスタ・リカでネイチャーウォークに参加したとき、ガイドさんが雨季は「グリーンシーズン」と呼ぶのだと言っていた。乾季の熱帯はカサカサした景色になりがちだが、雨季の熱帯雨林は色鮮やかで瑞々しく、ジャングルらしさをより味わえる。

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

パナマ旅行の最後の数日はパナマシティに滞在し、そこから日帰りできる場所を楽しむことにした私たち。パナマシティは近代的な高層ビルの立ち並ぶ大都市だが、都会は他の国にもいくらでもあるので、パナマではできるだけ熱帯の自然を楽しみたかった。

パナマは首都周辺も自然がとても豊かだ。パナマ運河地帯は広範囲が森林に覆われていて、いくつもの国立公園や自然保護区がある。他の場所では絶滅の危機にある希少な動植物が多く生息しているそうだ。運河の右岸に細長く広がるソベラニア国立公園(Soberania National Park)はパナマシティからわずか25km。森林をハイキングしたり、チャグレス川をボートでクルーズしながら動植物を観察できるという。

行ってみて、その素晴らしさに驚いた。特に野鳥の多さは感動的で、小一時間ほどのクルーズの間にすごくたくさんの水鳥を見ることができた。ソベラニア国立公園で生息が確認されている鳥類は525種にも及ぶそうだ。ボートの上から撮影したのでピンボケの写真ばかりになってしまったが、たとえば、

ルーフェセント・タイガー・フェロン(Rufescent tiger heron)

アメリカササゴイ(Green Heron)

ヒメアカクロサギ(Little Blue Heron)の幼鳥?

キバラオオタイランチョウ(Great kiskadee)

アメリカムラサキバン(Purple Gallinule)

アカハシリュウキュウガモ(Black-bellied Whistling-Duck)

アメリカヘビウ(Anhinga)

アメリカレンカク(Northern Jacana)の幼鳥?

痛感したことは、熱帯に行くときにはその土地の野生動物や植物が載っているフィールドガイドを持って行った方が絶対にいいということだ。見たことのない生き物ばかりなので、フィールドガイドがないと「綺麗な鳥」「変わった動物」というので終わってしまう。それでも楽しいことには変わりないけど、なんという種類なのかわかった方がより楽しさが増すと思うのだ。私はパナマえはそれ以前のコスタ・リカ旅行の際に現地で買ったフィールドガイドを持って行った。生態系に共通項が多いので、まあまあ役に立った(画像の下の種名は今、この記事をリライトする際に調べて書いた。間違いがあったら是非コメントで教えてください)。実はこのときまで野鳥にはそれほど興味がなかったのだが、ソベラニア国立公園でたくさんの野鳥を見てすっかり魅了され、今ではすっかりバードウォッチャーになっている。

ボートから水鳥や亀、魚を眺めて楽しんでいると、そのうちにボートの運転手が「サルを見せてやる」と言って小島の岸辺にボートを寄せた。「バナナ持ってる?」と聞かれたので「ない」と答えると、「ちぇっ。ないのか」と言いながらも島の木々の上の方に向かって奇声を発してサルを呼んでくれた。餌をもらえると期待したノドジロオマキザルが数匹、木を降りて来た。枝伝いにボートに近づいて来る。

こういう展開を想定していなかったので、餌を用意していなかった。でも、野生のサルに餌付けをするのはどうなのかなあ。持ち合わせがなくてかえってよかったのかも。しばらくすると他の観光客らを乗せたボートが近づいて来て、彼らのうちの一人がバナナを岸に向かって投げたので、サルたちはそちらへ行ってしまった。

さて、私たちはそろそろ戻ろうかと思ったときだった。「見ろ!イグアナだ!」。夫の声に岸辺を見ると、そこには立派なイグアナがいた。すると、ややっ?2ひきのノドジロオマキザルがイグアナに近づいて行って威嚇を始めた。

そしてこのような結末に。予期せず面白い場面に遭遇し、興奮に沸く私たちであった。

 

ボートクルーズの後は公園内の森を散策。

「公園」とはいってもジャングルだからね。靴はすぐにドロドロになってしまう。汚れるのが好きでない人にはおすすめしない。毎日のようにこんなことをしているので、どんどん汚くなって行く私たち。

首都から30分の地点でこんな豊かな自然体験ができるなんて、パナマは信じられない国だ。そして、私たちはすでに2週間以上に渡って野外活動を楽しんでいる。こんな贅沢な機会を与えてくれるパナマの自然環境に感謝するのみである。

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

ボケテ高原で1週間、コロン島で1週間を過ごした後、再びパナマシティへ戻って来た。今回の旅行は3週間の日程で、コロン島の後は太平洋側のコイバ島かカリブ海側のサンブラス諸島のどちらかへ行くつもりだった。天候などを見てどちらにするか決めようと思っていたのだが、コロン島で毎日数時間、雨に降られたので、雨季の今はパナマシティに戻ってそこから日帰りで行ける場所を訪れる方が天候に臨機応変に対応できそうだと思い、残りの日はシティのホテルに滞在することにした。

それと別に関係ないけれど、この旅行記には食べ物のことをあまり書いていないので、ここらでまとめてパナマの食べ物について書いておこう。

私は普段、食べ物にはそれほどこだわらないが、知らない土地に行ったらそこのローカルフードを味見したい。私に限らず、日本人にはご当地食に興味のある人が多いのではないかな。ところが、場所によってはローカルフードになかなかありつけないことがある。というのは、欧米観光客には知らないものより食べ慣れたものを食べたがる人が少なくないため(もちろん、人によるが)、欧米人を主なターゲットとした観光地では彼らの味覚に合わせた食事を提供しているのだ。朝食はパンにハムやチーズ、卵料理、昼や夜もハンバーガー、パスタ、ピッツァ、ステーキなどがメインだったりする。

私は欧米で洋食を食べるのは好きだけれど、アジアやアフリカやその他の地域に行ってまで欧米料理をわざわざ食べたくない。洋食の本場ではないのでクオリティがいまいちだし、その土地にはその土地の美味しいものがあるのだから。しかし、ローカルフードを出す店が見つからなければしかたがない。パナマに着いて最初に泊まったホテルの朝食はこんな感じだった。

ビュッフェ形式で、パナマの食べ物と思われるものがかろうじていくつかあったので早速試してみる。手前の皿の上の方に見える円盤状のものとフライドポテトに似た揚げ物、そしてよくわからないでんぷん質の棒状のもの。円盤状のものはトルティーヤと呼ばれる潰しトウモロコシを固めて油で揚げたもの。メキシコ料理のトルティーヤのような薄い皮状ではなく、厚くてぽてっとしている。フライドポテトのようなものはキャッサバのフライでユカと呼ばれる。味はフライドポテトに似ている。そしてよくわからないでんぷん質のものは茹でキャッサバらしい。

正直に言おう。食べてみたが、どれもあまり美味しくは感じなかった。モソモソとしていて味があまりなく、脂っこい。不味いわけではないが、この時点ではふーんという感じ。でも、この後、他の場所でこれらを繰り返し食べることになり、作りたてのものはとても美味しいと判明した。トウモロコシの粉にせよ、キャッサバにせよ、それ自体の味はニュートラルで、揚げたてはサクサク、ホクホクとして美味しいけれど、時間が経つと食感が損なわれてあまり美味しくなくなってしまう。最初の朝ホテルで食べたのは冷めていたので、いまひとつだったのだろう。

昼間は観光で忙しく、ゆっくりレストランに入って食事をする感じではなかったので、軽食で済ますことがほとんどだった。パン屋や屋台でエンパナーダというピロシキのようなものを買って食べた。小麦後の皮で具を包んで焼いたり揚げたりした食べ物で、パナマに限らず中南米の多くの国でポピュラーなスナックのようだ。

いろんな具のものがある

こちらは小麦粉ではなくトウモロコシの粉の皮のエンパナーダ。これは道端の軽食屋で揚げたてのを食べ、とても美味しかった。(でも、脂っこいので、冷めるといまいちかも)エンパナーダの具はチーズ、牛ひき肉、鶏肉が定番のようだ。

パタコンという、調理用バナナを二度揚げしたものもあちこちで食べられる。それから、ローカルフードと言っていいのかどうかわからないが、小さなスーパーは華人が経営していることが多いので、肉まんがわりとどこでも買えた。

夕食は観光客向けのレストランで食べていた。観光地ボケテ高原にはお洒落な店構えで美味しい料理を出す店が多い。が、前述の通り、洋食ばかりでちょっとがっかり。ローカルフードは料理の付け合わせに揚げたバナナやキャッサバが出てくる程度だ。でも、中南米で広く食べられているセビーチェという魚介類のマリネはほとんどのレストランで出していて、いろんなバリエーションがあり、どの店で食べてもまずハズレがなく、とても気に入った。

あるお店のセビーチェ

 

レストランのシーフードはとても美味しい。でも、これはローカル料理ではないのでは。せっかくパナマに来たんだから、パナマの料理がどうしても食べてみたくて、地元の人たちが行く食堂へ行ってみた。

ボケテタウンにあるローカルな食堂

カフェテリア形式だが、並んでいる料理の種類が少なく、作ってから時間がかなり経っているように見えた。後で知ったことには、パナマのローカル食堂の多くは朝ごはんと昼ごはんのみで夜は開いていないところが多いのだそうだ。ここは夜も開いていたけれど、料理はランチの残り物だったみたい。

食べたのはこんな料理。ピラフのような米料理とポークチョップ的なもの、それと焼きバナナ。んー、不味くはないけど、特別美味しいというわけでもないかな。でも、やっとローカルな食事ができたのでとりあえず満足した!

地方の現地の人たちが利用している屋台や素朴な食堂ではシーフードは見当たらず、屋台ではフライドチキンまたはグリルチキン、エンパナーダ、オハルドゥレなど、食堂では米や豆料理や肉料理を出しているようだった。全体的に揚げ物が多く、野菜料理は全然といっていいほど目にしない。

首都パナマシティではどうかというと、大都会なのでレストランはいくらでもあって、いろんな国の料理を食べることができる。そして、ハンバーガーやピッツァなどアメリカ風ファストフードの店もすごく多い。地方では感じなかったが、パナマシティでは太った人をたくさん見かけた。パナマシティには大衆食堂や屋台もたくさんあるが、内容的にはやはり揚げ物や炭水化物が中心のようだった。

 

パナマにはPio Pioというファストフードチェーンがある。試してみることにした。

 

Pio Pioで食べたグリルチキンとパタコン

 

パナマの代表的なスープとされるサンコーチョという鶏肉のスープ

 

ピラフと唐揚げ

ファストフードにしては、なかなか美味しかった。

どうにかして現地の人たちが一般的に食べているものを食べようと探した結果が以上である。どうやらパナマ人は揚げ物が大好きで野菜はあまり食べないようだ。もちろん、これはたった数週間のパナマ滞在で得た印象に過ぎず、家庭ではもっと違うものを食べているのかもしれない。だからこれはパナマ料理の解説記事ではなく、あくまでも私が食べてみたパナマのローカルフードとと考えてください。

 

 

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

コロン島を離れる時が来た。コロン島での1週間はボケテ高原での1週間よりもハードだった。二晩続けての凄まじい雷、ほぼ毎日降って来る雨、猛烈な湿気、穴だらけの道路、明け方はホエザルの吼える声で目が覚める。こんなことを書くと、「よくそんなところに1週間もいたね」と言われそうだ。

でも、私はこの島が気に入ってしまった。怖かったり不快だったりしたが、それらは誰のせいでもない自然現象で、自然をここまで直接的に体験することは日頃、ほとんどない。だから、コロン島での日々はしっかりと記憶に刻み込まれることだろう。なにかとてもマジカルな島なのだ。

それに島の雰囲気は明るく開放的で、馴染みやすかった。ボカスタウンはそこそこ観光地化されているけれど、観光客向けのエリアと住民の生活エリアが分離されていないので、現地の人たちの生活を垣間見ることができる。近所の子どもたち同士が路上に出て遊んでいたり、ティーンエイジャーたちがビーチ沿いでバスケットボールをしていたり、おばさんたちが井戸端会議をしていたり、おじさんたちが屋台で食事をしたりしている。そんなローカルな景色が楽しい。

地元の学校

路上で遊ぶ子どもたち。なんとなく懐かしい

屋台風景。売られているのはフライドチキンや揚げパンなど、揚げ物が多い

道路のど真ん中で爆睡する犬

スーパーに商品を投げ入れる人たち。

 

ある夜、メインストリートで夕食を取っていると、往来がにわかに騒がしくなり、窓の外に目をやった娘が叫んだ。「ちょっと!なんかパレードが始まったよ!」

陽気な音楽の流れる中、松明を持った人たちがゾロゾロと歩いている!嬉しくなって外に飛び出し、行列についていった。「なんのお祭り?」「小学校の開校記念日だよ」。歩いているのは子どもとお母さんたちが多いと思ったら、学校行事だったのか。関係ないのに一緒に行進してしまった。

ボカスタウンには特別な見所は何もないけれど、美しい海と森に恵まれ、シーフードが美味しく、人々の暮らしを間近に感じることができる。離れるときにはなんだかとても寂しかった。

さようなら、雷アイランド。島を離れるフェリーからボカスタウンを眺めると、上空にはまたもや雨雲が。あの雲ともお別れかあ。と思ったら、雨雲はフェリーについて来たのだった。しかも、雲の方が動くスピードが速く、途中で追い越された。アルミランテに上陸した私たちは土砂降りの中をドライブすることになってしまったよ。

ただでさえ霧の峠を越えなくてはいけないというのに、雨。土砂崩れなどしていたら嫌だなあと思ったら、案の定。

幸い、事故もなく無事に峠を越えることができたが、パナマシティまでの道のりは長い。田舎道はこのように状態が良くないし、ようやくハイウェイに出たらあとは一本道だから楽かと思いきや、ハイウェイのはずなのに横切ったりUターンできる箇所があって、そこをウィンカーも出さずにいきなり曲がって来る車があるわ、ハイウェイを犬が歩いているわ、暗くなってからライトも点けずにハイウェイを自転車で横切る人がいるわで恐ろしいことこの上ない。パナマシティに近づくにつれて車の量が多くなり、まるでマリオカート状態である。

そんな状況の中、13時間かけてパナマシティにようやく戻って来た。どっと疲れてホテルのベッドに倒れこむ。エアコンが効いた部屋、パリッと乾いたシーツ。ここは勝手知ったる都会。

でも、ほっとするよりもなにか形容しがたい奇妙な喪失感に襲われる。ここは別世界。今朝まで自分を包み込んでいた鳥のさえずり、虫の声、サルの叫び、波の音、それらは一気に消えた。魔法は解けてしまったのだ。都会の静かな部屋で、まだ頭から離れないコロン島の景色を思いながらいつか眠りに落ちた。

 

 

 

 

(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)

ボカス・デル・トーロ県コロン島には1週間滞在したが、滞在中にぜひ訪れたいと思っていた場所がある。それはスミソニアン熱帯研究所だ。スミソニアン熱帯研究所(STRI)は米国ワシントンに本部のあるスミソニアン研究所に属する機関で、パナマシティの近郊、バルボアに本部がある。そのSTRIの研究施設がコロン島にもあり、私たちの滞在している場所のすぐ近くだった。毎週、木曜と金曜に見学が可能とのことだが、私たちがコロン島に到着したのは金曜の夜で、コロン島を離れるのは1週間後の金曜の朝だったので、研究所を見せてもらうとすると滞在最終日の木曜しかない。そんなわけでコロン島に滞在中ずっと楽しみにしていたのだ。

とうとう木曜日がやって来て、張り切って研究所へ行く。米国人の夫婦が門の前で待っていたので一緒にそこで待機していると、所内を案内してくれる研究者と思しき若い女性が出て来た。

「ブエナス・タルデス。今日はようこそお越しくださいました。みなさん、スペイン語はおわかりになりますか?」と挨拶されたので、「ポキート(ほんの少しだけ)」と答える。「そうですか。じゃあ、英語でご説明しますね」となるかと思いきや、返って来た言葉はなんと「そうですか。じゃあ、ゆっくり話しますね」。えええ!?案内、スペイン語なの???ショック。スペイン語圏なのだから案内がスペイン語でも文句を言う筋合いはないとわかってはいるが、説明を理解する自信がないよ、、、。

どうにか少しでも聞き取ろうと必死に耳をそばだてたけど、半分くらいしかわからなかった。残念。

スミソニアン熱帯研究所はコロン島のマトゥンバル海洋保護区(Matumbal Marine Reserve)の湾に面した敷地を有し、そこに25名ほどの研究者が常在して生物の進化や気候変動や人間の活動がカリブ海の生態系に及ぼす影響などについて研究を行なっている。ボカス・デル・トーロは小さなエリアに非常に多くの生き物が生息し、生物多様性の研究に適しているそうだ。パナマの中でも特に雨が多く、湿度が高いのがこの地域の特徴だと研究者の女性が説明してくれた。確かにコロン島の湿度は半端ではない。今は雨季なのでボケテ高原も雨がちだったが、霧雨だったのであまり気にしていなかった。しかしコロン島にきてからは降るとなったら滝のような雨が降り、雨が止んだら止んだで蒸し暑い。洗濯物が乾く暇が全くないのだ。ランドリーの乾燥機で乾かしてもらい、ホカホカの状態で受け取っても、数時間経つとまた湿ってしまう。シーツもタオルもすべてがジメッとして、ガイドブックも水分を吸収してしなしなになってしまった。

研究湾はマングローブ林に縁取られている。コロン島には3種のマングローブがあるそうで、これはmangle rojo(直訳すると、赤マングローブ)。根が赤っぽい色をしている。マングローブは魚や貝などだけでなく、鳥や昆虫、哺乳類など多くの生き物に生息環境を与えるため、マングローブ生態系を保護することは”muy importante(大変重要だ)”だと言われた。重要だということはわかるけど、具体的にどのように重要なのか詳しいことが知りたかったけれど、質問したくてもスペイン語が出て来ない(悲)。

カイメンの実験設備。

ちょうどここで実験作業をしていた研究者の方は英語話者だったので、少し説明して頂いた。栄養液で満たされたこの水槽にはいろんな種類のカイメンが飼育されている。カイメンは細菌と共生関係にある。マーカーを含むこの栄養液中でカイメンを飼育した後、カイメンと細菌を分離し、マーカーを使ってそれぞれがどのくらいの量の栄養を体内に取り込むのかを量的に分析しているそうだ。ということだけ聞いた時点で案内役の人が歩き始めてしまったので慌ててついていく。もっと詳しくカイメンの話を聞きたかったのにー。

水槽を見て初めて気づいたのだが、私は今までサンゴとカイメンの区別がついていなかった。アイランドホッピングに参加した際にサンゴ礁でスノーケルをして「カリブ海のサンゴはカラフルで綺麗だなあ〜」と感動していたが、私がサンゴだと思っていたものの多くは海綿だったみたい。無知で恥ずかしい。海の中を自分で実際に見る機会は少ないから、と言い訳してみる。でも、興味が湧いたので家に帰ったら海の生き物の図鑑を入手して調べることにしよう。

敷地内には沼もあり、ワニやカメなどもいる。

カイマンが見えた。

施設では研究に使う水は雨水をこのようなタンクに溜め、

濾過装置で濾過した後、紫外線で殺菌している。

展示スペースには大きな鳥の巣が展示されていた。「これ、オオツリスドリのですよね?」。こちらの記事に書いたように、私たちの滞在している部屋の窓からはオオツリスドリが巣を作るために植物の繊維を集めているところが観察できた。でも、周りに大きな葉が多くて視界が遮られ、作った巣を確認できなかったのでここで見られたのは嬉しい。ここでは巣を横向きに展示しているけれど、実際には細い方を上に枝に吊り下げるようだ。親鳥は上の方に開いている穴から巣に出入りして子育てするんだね。

この研究所には日本人の研究者の方もいらっしゃると聞いた。お目にかかることはできなかったが、北海道出身でカエルの研究をされているそうだ。どんな研究をなさっているのだろうか。

施設を見学することができたのはよかったけれど、スペイン語力がなくてまともな質問が何もできなかったことにがっかり。読むのはそれなりにできるようになったんだけど、、、。悔しい思いをしたので、これからスペイン語を学ぶモチベーションになりそう。