(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)
ボケテ高原のパロ・アルトに到着した翌朝、朝食の席で娘がその日のアクティビティを提案した。小さい頃からあちこち連れ回したせいか、大の旅行好きに成長した娘。やる気満々である。
「まずはコーヒー農園を見学に行こう」と娘は言う。ボケテ高原はコーヒーの産地で、アラビカ種だけでなく希少なゲイシャ種のコーヒーも栽培されていることで知られる。見学できるコーヒー農家は複数あるが、その中から娘がピックアップしたのはレリダ農園(Finca Lerida)だった。宿泊施設やレストランも併設するお洒落な農園だ。
パナマのゲイシャコーヒーについて、またレリダ農園についても農業の専門家である宮﨑大輔さんが以下の記事を書いていらっしゃるので、興味のある方は詳しくは宮﨑さんの記事を読んでいただければと思う。
パナマ産ゲイシャコーヒーの特徴!中米ボケテ高原のコーヒーツアーで学んだ栽培方法、豆の精製・焙煎技術、値段
ゲイシャコーヒーを育てる中米パナマ・ボケテ高原のレリダ農園の生産・加工・輸入・テイスティング方法
コーヒーの収穫期は11月から3月までだそうで、今は6月だから本来は収穫期ではなくツアーの内容は少し違っていたようだ。レリダ農園では50ヘクタールの畑にアラビカ種のカトゥアイという品種とゲイシャ種の2種類を栽培している。カトゥアイは標高の高いところで、ゲイシャは標高1600mくらいの低いところで栽培されているが、ツアーではゲイシャ種の畑を歩きながら説明を聞いた。
ゲイシャ種はエチオピア原産の品種で、とても繊細で栽培が難しい。労力に見合うほどの量が収穫できないので、かつては誰も栽培したがらなかったそうだ。しかし、お茶に似た軽い味わいとフルーティな香りが中国人などアジア人に受け、人気が出た。レリダ農園ではコーヒー畑に他の木を一緒に植え、コーヒーの木に当たる日射量を最適に保ち、風が当たりすぎないように調整するなど、繊細なゲイシャ種を手をかけて栽培している。
収穫期ではないけれど、木には花があり、実がなっていた。
その年の最初の強い雨の後、コーヒーの木は花を咲かせ、花が散った後、枝に節ができる。実はその節になる。青い実が熟れて赤くなったら収穫だ。ところが、近年、異常気象が続き雨が降りすぎたため、ストレスでコーヒーのライフサイクルが狂ってしまっているそうだ。
さらには葉っぱが寄生虫にやられ、カビが生えて写真のように黒ずんでしまった木がたくさんあった。大変なダメージだ。しかし、やみくもに農薬を散布すると益虫も一緒に死んでしまう。なるべく農薬の量を抑えながら効果的にカビの問題を解決しようと栽培ロットごとに様々な方法を試しているそうだ。農業って大変だなあ。
熟れた実(チェリーと呼ぶ)を潰して押し出した生豆にはヌメヌメしたゼリー状のものが付いている。伝統的なコーヒー豆の処理法は水洗い法といい、ゼリー状のものを洗い流してから3週間ほどかけて乾燥させ、皮を剥く。でも、前述のように異常気象で本来は収穫期でない時期に実がなったり、コーヒーの実を摘む労働者が不足していて摘みきれない実が熟しすぎ、美味しくなくなってしまうという問題があるそうだ。
そこで、水洗い法の他の方法も取られるようになった。その一つはハニー法といって甘いゼリー状のものを洗い流さないまま乾燥させる方法で、ゼリーの甘みが残るのでハニー法と呼ばれるそうだ。もう一つはナチュラル法で、実を丸ごと乾燥させ、後から機械で割って豆を取り出す。これらの方法は人手不足による苦肉の策だったが、出来上がったコーヒー豆はそれぞれ味わいが違い、飲み比べて違いを楽しめるのがセールスポイントになっているという。
こちらの豆はゲイシャではなくカトゥアイ。熟れると黄色くなる種類もある。コーヒーの実の品質は大きさ、色、密度などで決まる。グレードの高いものは主に輸出され、グレードの低いものは地元で消費される。高校を卒業してから一人で1ヶ月半、エクアドルに滞在したことのある娘は「エクアドルでも美味しいコーヒーはヨーロッパなどに輸出されて、地元で飲むのはセカンドクラスだと聞いたよ」と頷いた。
他にもコーヒーの歴史など面白い話をいろいろ聞かせてもらった後、ティスティングをすることになった。水洗い法、ハニー法、ナチュラル法のそれぞれで精製したカトゥアイと水洗い法のゲイシャの4種を比べるという。
コーヒーのティスティングは初めてで、ただ飲み比べるだけかと思ったら、ローストした豆の状態での香りの違い、挽いた豆の香りの違い、お湯に溶いた状態での香りの違い、そして飲んでみての味と香りの違いと4段階で比較するという。それぞれどう違うか、コメントしてくださいとガイドさんに言われたので戸惑う。水洗い法の豆が一番普通のコーヒーらしく、その他はそれぞれ香りが違うのはわかるけれど、言葉で説明するのは難しい。いろいろな香りの書かれた円チャートを指差さされ、「さあ、この中のどの香りを感じますか?」と聞かれる。「えーと、ハニー法の豆はちょっとシナモンっぽい香り?」「シトラス系の香りもしませんか?」「ナチュラル法はウッディな香りかな」。コーヒー豆ソムリエごっこのようでなかなか楽しい。
ゲイシャ種の豆は明らかに異なる香りがした。コーヒーというよりも軽くて確かにお茶のよう。そしてフルーティでちょっとフローラルな香りがする。すごーーーくいい香り!希少だからありがたがるわけではないけど、なんだかすごく気に入ってしまった。世界で最も高いコーヒーの一つだそうで、パナマで飲む機会が得られてよかった。