(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)
コロン島を離れる時が来た。コロン島での1週間はボケテ高原での1週間よりもハードだった。二晩続けての凄まじい雷、ほぼ毎日降って来る雨、猛烈な湿気、穴だらけの道路、明け方はホエザルの吼える声で目が覚める。こんなことを書くと、「よくそんなところに1週間もいたね」と言われそうだ。
でも、私はこの島が気に入ってしまった。怖かったり不快だったりしたが、それらは誰のせいでもない自然現象で、自然をここまで直接的に体験することは日頃、ほとんどない。だから、コロン島での日々はしっかりと記憶に刻み込まれることだろう。なにかとてもマジカルな島なのだ。
それに島の雰囲気は明るく開放的で、馴染みやすかった。ボカスタウンはそこそこ観光地化されているけれど、観光客向けのエリアと住民の生活エリアが分離されていないので、現地の人たちの生活を垣間見ることができる。近所の子どもたち同士が路上に出て遊んでいたり、ティーンエイジャーたちがビーチ沿いでバスケットボールをしていたり、おばさんたちが井戸端会議をしていたり、おじさんたちが屋台で食事をしたりしている。そんなローカルな景色が楽しい。
スーパーに商品を投げ入れる人たち。
ある夜、メインストリートで夕食を取っていると、往来がにわかに騒がしくなり、窓の外に目をやった娘が叫んだ。「ちょっと!なんかパレードが始まったよ!」
陽気な音楽の流れる中、松明を持った人たちがゾロゾロと歩いている!嬉しくなって外に飛び出し、行列についていった。「なんのお祭り?」「小学校の開校記念日だよ」。歩いているのは子どもとお母さんたちが多いと思ったら、学校行事だったのか。関係ないのに一緒に行進してしまった。
ボカスタウンには特別な見所は何もないけれど、美しい海と森に恵まれ、シーフードが美味しく、人々の暮らしを間近に感じることができる。離れるときにはなんだかとても寂しかった。
さようなら、雷アイランド。島を離れるフェリーからボカスタウンを眺めると、上空にはまたもや雨雲が。あの雲ともお別れかあ。と思ったら、雨雲はフェリーについて来たのだった。しかも、雲の方が動くスピードが速く、途中で追い越された。アルミランテに上陸した私たちは土砂降りの中をドライブすることになってしまったよ。
ただでさえ霧の峠を越えなくてはいけないというのに、雨。土砂崩れなどしていたら嫌だなあと思ったら、案の定。
幸い、事故もなく無事に峠を越えることができたが、パナマシティまでの道のりは長い。田舎道はこのように状態が良くないし、ようやくハイウェイに出たらあとは一本道だから楽かと思いきや、ハイウェイのはずなのに横切ったりUターンできる箇所があって、そこをウィンカーも出さずにいきなり曲がって来る車があるわ、ハイウェイを犬が歩いているわ、暗くなってからライトも点けずにハイウェイを自転車で横切る人がいるわで恐ろしいことこの上ない。パナマシティに近づくにつれて車の量が多くなり、まるでマリオカート状態である。
そんな状況の中、13時間かけてパナマシティにようやく戻って来た。どっと疲れてホテルのベッドに倒れこむ。エアコンが効いた部屋、パリッと乾いたシーツ。ここは勝手知ったる都会。
でも、ほっとするよりもなにか形容しがたい奇妙な喪失感に襲われる。ここは別世界。今朝まで自分を包み込んでいた鳥のさえずり、虫の声、サルの叫び、波の音、それらは一気に消えた。魔法は解けてしまったのだ。都会の静かな部屋で、まだ頭から離れないコロン島の景色を思いながらいつか眠りに落ちた。