もし、「マサイマラはどうだった?」と聞かれたら、一言目には迷わず「すごく良かった!」と答えるだろう。野生動物の密度と視界の良さでマサイマラ国立保護区に勝る場所はこの地球上でそうそうないのではないかと思われる。

その一方で、少し気になることもあったので、反省の意も込めて記録しておきたい。

気になることというのは、動物との距離がとても近いことだ。先にも述べたが、保護区では基本的にはサファリ客はサファリかーから降りることはできない。車に乗ったまま、風景の中の野生動物を見ることになる。しかし、例外もあり、許可された一部の場所では車を降りて休んだり、散策することが許されている。そのようなルールの中、とても楽しかったのはマサイマラで体験したピクニックだ。終日サファリの日はロッジにお弁当を作ってもらい、ピクニックツリーと呼ばれるアカシアの木の下でブランケットを広げ、お昼ご飯を食べる。ピクニックツリーはいくつもあり、程よい木陰のある木をガイドさんが見つけてくれる。

あの木なんか素敵!と思っても、要注意。木の下をよく見ると、、、

ライオンが昼寝中だったりする。

マサイマラでのサファリの1日目に車を止めたピクニックツリーの下に、何やら毛玉のようなものが落ちていた。

「ああ、ハイエナがここにいましたね。ハイエナは獲物を食べた後、消化しにくい毛を吐き出すことがあるんです」とルーカスさん。そうか、ここにハイエナがいたのか。

ブランケットを広げ、座ってランチボックスを開けたら、どこからともなくハゲコウがやって来た。

じっ。ハゲコウもランチ食べたいみたい。

美味しいものがたくさん詰まったランチボックス

さらにもう1羽のハゲコウがやって来て、2羽のハゲコウに両側から見られながらお昼ご飯を食べることになった。もちろん、野生動物に餌をやるのは御法度だ。でも、食べ残しをやる観光客も中にはいるだろうし、そうでなくても近寄って来て人間の食べ物を盗む動物もいるだろうと思われる。

しばらくしたら、急にハゲコウたちはそそくさと足早に離れて行き、遠くへ飛び去った。なぜ急に?と訝しく思い、ふと振り返ると、

そこにはヒヒがいた。ハゲコウたちはヒヒが近づいて来たから去っていったのだろう。そんな力関係を目にするのも興味深い。

二日目は別の木の下でランチタイム。この日はそう遠くない距離をゾウの群れがゆっくりと通り過ぎていった。こんなふうに、野生動物と同じ空間を共有していると実感できるのは素晴らしい。

その反面、サファリ客が動物に近づきすぎているのではと感じるシーンも多々あった。多くの動物たちはサファリカーに慣れていてリラックスしており、車が近づいても逃げるどころか、平気で車の目の前を横切るものもいる。人間は自分たちに危害を加えないと知っているからこその行動だろうから、それは特に問題ではないのかもしれない。しかし、サファリカーが動物にあまり接近するのはどうなんだろう?ビック5のいる場所には多くの車が集まり、至近距離で写真を撮ろうとみんなが身を乗り出す。車の数が多いと良いアングルの争奪戦となり、動物たちの周りではひっきりなしにエンジン音が鳴り響くことになる。私たちが滞在した2月はピークシーズンではないが、それでも大人気のマサイマラ国立保護区には多くのサファリカーが走っていた。ピークシーズンには一体どれほどの観光客が押し寄せるのだろうか。

自分自身もサファリをしているのだからサファリカーが多すぎると文句を言える立場にない。が、さすがにあればないんじゃないかという光景に出くわした。ライオンの赤ちゃんたちが寝ている茂みを道路から双眼鏡で観察していたときのこと、たくさん停まっていたジープの1台がふいにエンジンをかけたと思うと、草むらに分け入って行った。ルーカスさんによると、オフロードは禁止されており、見つかるとかなりの罰金を取られるらしいが、その車はルールなどなんのその。茂みの至近距離まで近づいた。すると、他のジープも次々に後に続き、茂みのある木の周りを取り囲んでぐるぐると周りはじ始めたのだ。赤ちゃんたちはゆっくり休めないどころか、包囲されて逃げることもできない。明らかなハラスメントではないのか?

とても嫌な気持ちになり、「もう十分に見たので、他の場所に行きましょう」とルーカスさんに伝え、その場を離れた。動物を近くで見たい、良い写真を撮りたいというのはわかる。でも、今の時代、良い双眼鏡やズームレンズがあるのだから、かなり離れていても良く見ることは可能だ。まあ、客の方からオフロードで近くまで行ってくれと頼んでいるわけではなさそうで、ガイドさんが客に喜んでもらいたいと思ってそうしているわけで、そこには願わくばチップを弾んで欲しい、良いレビューをつけて欲しいという気持ちもあるのだろう。彼らはそれで生計を立てているのだから致し方ない面があるのもわかる。だからそこは、客の方が「そんなに近づかなくて結構です」とキッパリ断るべきなんじゃないかとやるせない気分だった。

動物の側からすれば、サファリ客などそもそも来ない方が良いに決まっている。ただし、サファリ客が来てお金を落とすことで野生動物の保護が成り立つという構図になっている以上、サファリというアクティビティの良し悪しには簡単に白黒つけられない。人は見たこともないものを保護しようとは思えないものだし、実際に動物を見ることで学べることが多いのも事実。私はサファリに行ったことを後悔はしていない。けれど、自分の行動がもたらすかもしれない負の影響に無自覚でいてはいけないなあと思う。