ポツダム・バーベルスベルク地区にかねてから気になっていた店があった。気になっていた、というのは、いつ通りかかっても閉まっていたからだ。個人経営のアンティークおもちゃの店haus42は金曜日の午後しか開店しない。定年退職したご夫婦が趣味で収集した古いおもちゃを販売しているらしい。同時におもちゃのミュージアムでもあるという。気になり始めてから2年ほど経ち、ようやくタイミングが合って中を見ることができた。


haus 42はAlt Nowawes通りにある。この通りを中心とする一角は、18世紀にボヘミア地方からやって来たチェコ人の織工たちの集落だった場所で、この建物は当時、全部で210棟建てられたKolonistenhausと呼ばれる入植者用住宅の一つだ。私のポツダムでのお気に入り散策エリアで、とても風情がある。

このエリアの歴史自体も興味深いのだけれど、詳しい紹介は別の機会にして、今回はhaus 42に集中しよう。

入り口のドアを開けて中に入ると、壁面びっしりにドールハウスが展示されていた。中からご主人が出て来たのでミュージアムを見せて欲しいと伝えると、ご主人が展示品を一つ一つ説明してくださった。期待以上に良い!過去に訪れたマンダーシャイトの鉱物博物館Die SteinkisteやヘルシュタインのGoldbachs Weine & Steineでも感じたことだが、個人経営のミュージアムはオーナーがコレクションについて熱心に説明してくれるのでとても楽しい。

実は私は今までドールハウスにはそれほど関心がなかった。でも、haus 42にあるドールハウスは古いものは1900年頃のもので、それぞれの時代の生活文化が反映されていて大変興味深い。

ドイツ帝国時代のドールハウス。お父さんは軍服を着、絨毯の上には兵隊のおもちゃが置かれている。

これは折りたたみ式ドールハウス。裕福な家庭が旅行に行くときに旅先で子どもが遊ぶために作られたもの。

産業革命が起きたグリュンダーツァイト(Gründerzeit)と呼ばれる時期のドールハウス。壁際には装飾の施されたカッヘルオーフェン(陶製放熱器)が設置されている。

ビーダーマイヤー時代のドールハウス。装飾性がおさえられ、比較的質素な雰囲気だ。

ご主人によると、ユーゲントシュティール(アール・ヌーヴォー)のドールハウス。

バウハウス・ムーブメントの影響を受けた1920年代のドールハウス。手前のテーブルと椅子が確かにバウハウスっぽい。

haus 42で取り扱っているドールハウスやその他のおもちゃは東ドイツの二大おもちゃ生産地、エルツ地方やテューリンゲン地方で作られたものがほとんどだ。Moritz Gottschalk社などのメーカーによるものの他に手作りのものもある。どこの家庭でも既製品のおもちゃを買えたわけではなく、厚紙で壁を作って壁紙を貼り、ミニチュア家具だけ買って並べたり、手先の器用な人ならかぐやお人形の洋服を手作りする人も少なくなかった。そういえば、うちの娘が小さい頃、義父も孫娘のために可愛いミニチュア家具をたくさん作ってくれたなあ。

 

クマのドールハウス。壁はデルフト焼きのタイルのイミテーション。ポツダム近郊のカプート城のタイルの間のタイルとそっくりだ。

写真は撮らなかったが、展示されているミニチュアキッチンはどれも造りが良く、おもちゃと言えども大変手の込んだものだった。使い捨てという発想のなかった時代のものはしっかりと作られているなあと感じることが多いが、おもちゃも然りである。

屋根の下の方にある留め金を外すと屋根が外れ、上に階を重ねていくことができる

奥の部屋は主にお人形のコレクション。紺のスカートを履いたお人形はケーテ・クルーゼのもの。

ミュージアム2階。ドールハウス以外のいろいろなアンティークおもちゃが見られる。真ん中の大きな教会模型はポツダム近郊のペッツォウ村にあるシンケル教会の模型である。

ご主人が手回し蓄音機のハンドルを回して音を聞かせてくださった。これをリアルタイムで聴いていた人たちはどんな生活をしていたのかなあ。左側の双子の赤ちゃん人形は紐を引っ張ると足をバタバタさせる。可愛いのか怖いのかちょっとよくわからないが、、、。

「おもちゃって社会文化史なのですね」と私が感想を述べると、「そうですよ。たかがおもちゃとバカにする人もいますが、人間の歩みを映す鏡なんですよ」とご主人は仰った。