(この記事は以前、他の場所で公開していた2019年6月のパナマ旅行記をリライトしたものです。)
前回の記事で凄まじい雷雨におののいた夜について書いたが、その次の夜も全く同じ状況だった。最初の夜はビビりつつも、「こんな体験、滅多にできない」とどこかで面白がっていたのだが、二晩連続となると「もしかして、毎晩こうなの!?」と先行き不安になる。幸い、その次の夜は静かでホッとしたものの、その分、朝方にホエザルが絶唱してくれた。またもや睡眠不足。
そしてその次の夜はこうだ。夜中にふと目がさめると、小屋がユサユサと左右に揺れている。寝ぼけていて何が起こっているのかわからない。「あれ?なんで揺れてる?サルが木を揺すってるのか?」とありえない考えが頭に浮かんだ。向こうのベッドで寝ている夫がつぶやいた。「ジシン」。はっ、そうか。これは地震か。地震の滅多にないドイツに長年住んで感覚を忘れてしまっていた。高いところにあるウッドハウスだから揺れを余計に強く感じたのかもしれないが、後から思うと体感震度は3と4の間くらい、結構長いこと揺れていたように思う。
そんでもってその次の夜。夕食から戻りドアを開けた瞬間、何かがサッと室内を飛ぶのが見えた。「あれ?何か虫がいるよ」。夫が叫ぶ。「虫じゃない、コウモリだよ!」どうやって入って来たのだろうか、私たちのいない間にコウモリが部屋に侵入していた。「網戸を開けろ!」「でも、開けると虫が入ってくるよ」「コウモリと寝るよりもマシだ!」しかたない、ドアを全開にし、網戸を開けた。幸い、コウモリはすぐに出て行ったが、案の定、蚊が入って来てしまい、刺されて痒くてまた夜中に起きてしまう。ああ、自然の中でぐっすり眠ることの難しさよ!
前置きが長くなったが、雨季のコロン島、夜はいろいろあっても昼間は晴れていることが多く、いろんなアクティビティを楽しむことができる。とても気に入ったのは5つのスポットを回るアイランドホッピングツアーだ。これがなかなか盛りだくさんな内容である。

ピンボケ失礼
ボカスタウンの港から出発し、まずはイルカ湾でイルカを観察する。
2つ目のスポットは無人島Cayo Zapatillaのビーチ。ここでは2時間ほど滞在し、ゆっくりとビーチを楽しむ。20人ほどのツアー客はほとんどが外国人観光客だったが、その中に若い男の二人組がいた。島についてボートを降りると、この二人組は娘に寄って来た。「俺たちと一緒に泳がない?」。保護者がついているというのに、そう誘って来るではないか。
「そうしよっかな」と娘が呟く。はい、どうぞどうぞお好きなように。早速、娘は二人組の男たちと連れ立って歩き出した。私と夫は若者の邪魔をしないように別の場所を探すことにする。夫が「もっとあっちに行こう」とどんどん歩いていくので、ボートからは随分離れてしまった。誰もいないところで荷物を下ろす。
それにしても美しいビーチである。水温もちょうどよく、最高だ。
ひとしきり泳いでふと見ると、夫は波打ち際でラッコのような体勢になって何やら手を忙しく動かしている。「何してるの?」「きれいなサンゴを探してるんだ。ハイ、これあげる」。
いろんな形のサンゴのかけら。ハート形のやブレーツェルのようなのものも。中年夫婦が海ではしゃいでいるところなど誰も見たくもないだろうが、本人たちはなかなか楽しいのであった。そういえば子どもの頃、大人とは「遊ばない人たち」のことだと思っていた。子どもは遊ぶ存在だが、大人になると遊ぶのをやめて分別のあることだけを言ったりしたりするようになる。そう思っていたものだ。でも、自分が大人になってみると、その認識は正しくなかったことがわかった。いくつになっても遊ぶのは楽しい。
さて、ボートに置いていかれては困るから、そろそろ戻ろうか。もと来た道を戻り始めると、娘が男たちと陸に向かって歩いていくのが見えた。あれ?いつの間にか男が一人増えている。3人目の若い男はひょろひょろした痩せ型の男であることが遠目に見て取れた。彼らは何をしに密林へ入って行くのか?
先にボートへ行って待っていると、まもなく娘たちもやって来た。二人組の男たちはボートに乗り込んだが、痩せた男は乗る気配を見せない。娘は男に別れのハグをし、男はやや悲しそうな目で「良い旅を!」と娘に手を振る。どういうことなんだろう?ボートが岸を離れたとき、娘は言った。「彼はね、スペイン人で、今、この島に住んでいるの」。「え?でもここ無人島でしょう?」「そう。彼はこの島でボランティアとしてウミガメの保護の仕事をしているんだよ。ウミガメの産卵を観察して記録するんだって。他にもう二人、ボランティアがいて、三交代でモニタリングしているんだ。寝泊まりしている小屋を見せてくれたんだよ。食べ物は1週間に一度、コロン島から運ばれて来るものだけ。スマホはあるけど、電波が届く場所は1本の木の下だけ。それもいつも繋がるわけではなくて、だから繋がった瞬間にスペインにいる家族に、生きてるよ!とだけ言ってそれでおしまいだって。私がクラッカーを一袋あげたら、泣きそうになって喜んでいたよ」。へええ。
「でも、なぜそんな条件でボランティアを?いつからやってるの?」「2ヶ月前から。生物学を勉強していて、ウミガメについて研究しているんだって。島には2種類のウミガメがいるみたい。いろいろ教えてもらったよ」。過酷そうだが、意義あることをしているんだなあ。そんな青年に出会い、娘は大いに感銘を受けたようであった。私はといえば、このときには「へえ、そういう活動もあるんだな」と思っただけだったが、頭のどこかに引っかかったようで、後にドイツで野生動物のモニタリングに関わることになる。人生、何がきっかけになるか、わからないものだ。
船は島を離れ、その後はスノーケルスポットでスノーケリングしたり、ヒトデが浜でヒトデを観察(コロン島のヒトデが浜とは別のヒトデスポットで、こちらの方がたくさんヒトデがいる)したりして、ツアーは終了。一人25ドルで6時間半。盛りだくさんで良いツアーだった。