野生動物に興味があるので、地元のいくつかの野生動物保護団体のニュースレターを配信登録したり、SNSでフォローしたりしている。先日、Facebookを見ていたら、NABUの「専門家が哺乳類のデータを収集するのを見学しませんか」というお知らせが流れて来た。

面白そうなので問い合わせてみたら、ブランデンブルク州でコウモリの保護活動をしている人たちが週末に集まり、個体数調査を実施することになっており、一般の見学参加を受け付けるという。もちろん申し込んだ。

うちの近くでも夏の夜にひらひらと小さいコウモリが飛んでいるのを見かけることがある。庭に死骸が落ちていたこともある。でも、ドイツのコウモリについての知識はまったくと言っていいほどなかった。コウモリ調査ってどんな感じなんだろう?

そんなわけで、今回の記事はコウモリ調査の見学記録である。

コウモリは夜行性だから、調査を行うのは夜間だ。大きな池のある公園で20:00過ぎから準備が始まった。

まず、池の周りにかすみ網と呼ばれる網を張る。北ドイツでは7月半ばの20:00はまだ明るい。コウモリが寝ぐらから出て、餌となる昆虫を探して飛び回るのは22:30くらいからだそうで、それまでの間、コウモリが発する超音波を検出するコウモリ探知器(バットディテクター)をセットしたりしながらコウモリたちの出現を待つ。

超音波を可聴域に変換するコウモリ探知器。

超音波を分析する装置。コウモリの種によって波形が異なるので、グラフを見ればどんなコウモリが飛んでいるのかがわかるそうだ。

コウモリの発する超音波を出してコウモリを誘うための装置もある。

そうこうしているうちにいよいよ暗くなって来た。

かかった!

コウモリを傷つけないように気をつけながら、網から外す。コウモリは狂犬病ウィルスに感染していることがあるので、触る際には手袋をはめるのが一般的なルールだ。特に大型のコウモリは噛む力が強く、噛まれると相当痛いらしい。調査員さんたちはコウモリの扱いに慣れているので、小さくておとなしい種は素手で掴んでいたが、経験のない人は真似しない方が良いだろう。

捕獲した個体は、種類、大きさ、重さ、性別、大人のコウモリかそれとも子どものコウモリか、などを確認して記録する。

翼の幅を測っているところ

袋に入れて棒計りで体重を測る。

性別チェック。これは見ての通り、男性。繁殖期が近づいて来ると、オスはテストステロンの分泌が活発になり、体臭が濃くなる。

メス。乳首を確認して授乳中であれば、できるだけすみやかに解放してやらなければならない。お腹を空かせた子どもが待っているからね。

記録が終わった個体は、二重にカウントするのを防ぐため、ホワイトペンでマーキングしてから解放する。

コウモリの調査といっても、同じ場所で捕獲できるのはきっと1種か、せいぜい2、3種なのだろうなとなんとなく想像していたが、この晩に確認できた種は11種に及んだ。コウモリはその種によって活動時間にズレがあるので、調査は一晩中やるのが理想だ。でも、さすがにそれは大変なので、この調査では夜中の1:00頃まで作業するということだった。捕獲できなかった種もいるだろうから、実際にはもっと多くの種が調査した池の周辺に生息しているのだろう。ドイツ全国では全部で25種のコウモリが確認されている(全25種の画像付きリストはこちら)。私が住むブランデンブルク州にはそのうちの18種がいることがわかっている。

ドイツのコウモリには大きく分けて、樹洞などを寝ぐらとする「森コウモリ」と建物に棲みつく「家コウモリ」がいる。かすみ網を使った調査の対象は「森コウモリ」だ。

代表的な森コウモリの一つは、ドーベントンコウモリ。ドイツ名はWasserfledermaus(学名 Myotis daubentonii)。直訳すると「水コウモリ」だ。池や湖の水面すれすれを飛んで虫を捕まえるので、裸眼でも観察しやすい。コウモリというとドラキュラのイメージで、不気味な生き物と敬遠されがちだけれど、このドーベントンコウモリは小さくて、顔もなかなか可愛い。背中を触らせてもらったら、モフモフしていた。

器用そうな指

アブラコウモリ (Zwergfledermaus、学名 Pipistrellus pipisterellus)はさらに小さい。

解放しようとしても、なかなか飛んでいってくれない子もいた。(笑

次々に網にかかるので、データを取るのが忙しい。網から外したコウモリはいったんバスケットなどに入れておくが、攻撃的な種とおとなしい種は別々の容器に入れないとならない。

いろんな種を見せてもらったけれど、コウモリを見慣れていないので、どれも同じように見えてしまう。これは確か、ヤマコウモリ (Abendsegler, 学名 Nyctalus)の1種だったと思う。(間違っていたらごめんなさい)

耳の長いウサギコウモリ (Braune Langohrfledermaus, 学名 Plecotus auritus)はわかりやすい。

顔は、コワかわいい?

ウサギコウモリはわかりやすいと書いたけれど、耳の長いコウモリはウサギコウモリだけではなかった。

ベヒシュタインホオヒゲコウモリ(Bechsteinfledermaus, 学名 Myotis bechsteinii)。

 

さて、コウモリ調査は夜間のみ行うのではなく、昼は昼でやることがある。家コウモリがいないか、教会の塔をチェックするのだ。村の小さな教会ばかりだったけれど、10箇所近く回って調査するので、なかなか大変だ。

でも、こんな梯子を登って塔の内部に入る機会は滅多にないから、ワクワク。

ある教会の塔の床には大量のフンが落ちていた。一見、ネズミの糞のようだけれど、見分け方がある。近くで見ると光沢があり(餌となる昆虫の外皮にあるキチンという成分を含むため)、押して潰すとサラサラしていて床にくっつかなければコウモリの糞だと教えてもらった。フンだらけの場所を歩くのは気持ちのいいものではない。病気が移ったりはしないだろうか。日本語でネット検索すると、コウモリが家に棲みつくと不衛生だと書いてあるサイトが多いけれど、ドイツ語の情報は「コウモリのフンには人間にとって危険な病原菌は含まれておらず、狂犬病にかかっているコウモリのフンでも、それによって人間が感染することはない」というものがほとんど。コウモリの糞は庭の植物の良い肥料になりますよと書いてあるサイトもある。自然環境や住環境の変化によってコウモリの住む場所が失われつつあり、個体数が減っていることから、自然保護団体NABUは家をコウモリフレンドリーにすることを推奨しているほどだ。(ソースはこちら)

それにしても、フンの量にはびっくり。ここに現在、コウモリがいるのは確実。

やっぱりいた!

ここではセロチンコウモリ (Breitflügelfledermaus,学名 Eptesicus serotinus )が育児中だった。夏の間、コウモリのメスは集団で子育てをする。メスはそれぞれ1匹か、せいぜい2匹しか子を産まず、赤ちゃんは4〜6週間の間、お母さんのおっぱいを飲んで育つのだ。森コウモリは水場で捕獲して数えることができるが、家コウモリは個体数を把握するのが難しい。フンの量や落ちている死骸の数から概算するしかない。

1970年代には激減し、いくつかの種は絶滅の危機に瀕していたドイツのコウモリは、過去20年間の保護団体の活動の甲斐あって、現在、個体数は低いレベルながらも安定しているそう。

過去に参加していたヨーロッパヤマネコの調査ビーバーの調査では動物そのものを目にすることはほぼないのに対して、コウモリ調査ではじゃんじゃん網にかかるので、調査のし甲斐があって面白いなあと思った。今回、いろんな種類のコウモリが身近にいるんだなと認識できたし、コウモリの性別を確認するという、なかなかできない体験ができた。機会があったら、また参加したい。

 

20代前半からずっと旅をしているが、若い頃とは旅の仕方がかなり変わった。ここ数年ハマっているのはテーマのある旅。行き先を決めるよりも先にテーマを決め、そのテーマを思い切り楽しめそうな場所を目的地に選ぶ。準備としては現地についての基本情報だけでなく、テーマに関する入門書を読み、できる範囲でざっくりと把握しておく。ネットのなかった昔と比べ、事前に収集できる情報量が格段に多くなっているので、リサーチに時間をたっぷりかけてプランを作っている。そして、現地に行ったらそのテーマに関するものをできるだけ多く見て、できるだけ多く体験する。現地で気になったことは家に帰ってからネットや本で調べる。

そんなのは面倒くさいとか、ふらっと出かけて現地での偶然の出会いや発見を楽しむことこそ旅の醍醐味なのだとか言われそうだけど、私の場合、旅とは事前のリサーチを楽しみ、現地での時間を楽しみ、そして帰宅後にブログにまとめるまでの全行程を味わい尽くすことなので、今のスタイルがとても気に入っている。この方法だと1回の旅行で半年間は楽しめる。それに、テーマを設定することで何か最低一つの事柄にじっくり取り組むことになり、自分の中にコンテンツとして蓄積されていく。貧乏くさい考えかもしれないけど、単に消費して終わるだけだと時間やお金がもったいないので、少しでも何かを積み上げていきたいと思ってしまうのだ。

一つのテーマ旅行をすることでそこから連鎖して新しいテーマに興味が湧くことも多い。これまでに実行したテーマ旅はたとえば、、、。

 

ドイツ、洞窟探検の旅

シュヴェービッシェ・アルプの洞窟

南ドイツ、シュヴァービッシェ•アルプの洞窟をめぐる旅。シュヴァービッシェ•アルプはジュラ紀に形成された石灰岩の山脈で、無数の洞窟のある美しいカルスト地形はUNESCOグローバルジオパークに登録されている。鍾乳洞や地下洞窟など、1週間かけて全部で11の洞窟を回った。シュヴェービッシェ・アルプの洞窟群は考古学的にも非常に重要な洞窟群で、洞窟探検のワクワク感と考古学を同時に楽しむことができるのが素晴らしい。頭も身体もフル回転でクタクタになったけれど、それだけ充実した満足な旅になった。

その1 洞窟 Charlottenhöhe

その2 考古学テーマパークArchäopark Vogelherdで氷河期の生活を体験

その3 地下55mまで潜れる地下洞窟、Tiefenhöhe Laichingen

その4 世界最古のヴィーナス像と笛が出土されたホーエ・フェルス

その5 子どもと楽しめる洞窟、BärenhöhleとNebelhöhle

その6 ブラウボイレン先史博物館

 

ドイツ、隕石を巡る旅

隕石孔の町、ネルトリンゲンとその周辺で隕石について学ぶ旅。博物館で隕石標本を眺めるだけでなく、ジオガイドさんの案内でクレーター内を歩き、隕石衝突の痕跡を観察したり、隕石衝突の際に形成されたガラスの破片を含む岩石「スエバイト」を採取するという特別な体験ができた。

 

1500万年前の隕石のかけらが見つかったシュタインハイム盆地のメテオクレーター博物館

隕石孔の町、ネルトリンゲンのリース・クレーター博物館

ネルトリンゲン、リース・クレーター内のジオトープで隕石衝突の跡を観察

 

ドイツ、火山とマール湖探検の旅

アイフェル のマール湖1

ドイツ東部のアイフェル地方は火山地帯でUNESCOグローバルジオパークに登録されている。火山をテーマに4泊5日でアイフェルへ行った。しかし、火山観光といっても、火山に登ったり、温泉に入ったりするのではない。アイフェルには「アイフェルの目」と呼ばれる、火山活動でできた丸い湖が無数にある。緑に縁取られたレンズのような姿が神秘的で美しいマール湖を巡るのが目的だった。また、火山アイフェル・ジオパークは湖も素晴らしいが、珍しい岩石や化石も豊富で、一味違った火山観光を楽しめた。

火山アイフェル・ジオパーク その1 「アイフェルの目」と呼ばれる美しいマール湖群

火山アイフェル・ジオパーク その2 マール湖跡からも化石がザクザク。Manderscheidのマール博物館

火山アイフェル・ジオパーク その3 アイフェル火山博物館で見られる陶器のような不思議な石

火山アイフェル・ジオパーク その4 岩石ワークショップと石探し

火山アイフェル・ジオパーク その5 ゲロルシュタインの自然史博物館と化石探し

火山アイフェル・ジオパーク その6 120トンもある巨大な火山弾、Lavabombe Strohn

 

ドイツ、鉱石と化石を探す旅

ペルム紀シダ化石2

ラインラント=プファルツ州のフンスリュック山地は岩石と化石の宝庫である。特に「ドイツ宝石街道」上にあるイーダー・オーバーシュタイン(Idar Oberstein)は古くから宝石の研磨産業で有名で、世界の希少な貴石が見られるドイツ貴石博物館やメノウコレクションが素晴らしいドイツ鉱物博物館がある。しかし、せっかく行くからには自分でも石を探したい。ジオガイドさんとの2日に渡る岩石・化石採集エクスカーションに参加し、とても面白かった。

デボン紀から第三紀までの様々な時代の化石が見つかるフンスリュック山地

フンスリュック山地で化石探しエクスカーション

坑道内で貴石を間近に見られる観光貴石鉱山、Edelsteinminen Steinkaulenberg

世界の希少な貴石が見られるイーダー・オーバーシュタインのドイツ貴石博物館

イーダー・オーバーシュタインのドイツ鉱物博物館

店主が化石コレクションを見せてくれるワインとアクセサリーの店、HerrsteinのGoldbacsh Weine & Steine

 

パナマ、野生動物と生物多様性について学ぶ旅

パナマのジャガランディ

中米の国、パナマは運河が有名なだけでなく、世界の生物多様性ホットスポットの一つである。パナマの国土は南北アメリカ大陸を繋ぐ東西に細長く伸びた地峡で、およそ約300万年前、北米大陸と南米大陸が繋がることで両者の動物種の大規模な交換が起きた。だから、パナマにはものすごい数の異なる種が生息している。哺乳類だけでおよそ240種!鳥や虫や魚の種類の豊かさは言わずもがなである。パナマのワイルドな自然と多様な生き物を堪能した。

パナマシティの生物多様性博物館 Biomuseo

Palmiraの動物保護施設、Jungla Wildlife Center

Volcánの野生動物保護施設、Raquel`s Ark

ツリーハウスからオオツリスドリの巣を観察する

コロン島のコウモリの洞窟、La Gruta

ボカス・デル・トーロのスミソニアン熱帯研究所を見学

パナマシティ周辺で生き物観察 ソベラニア国立公園

 

ドイツの給水塔を巡る旅

Premnitzの給水塔

ある日、当時ベルリンに住んでいたライターの友人、久保田由希さんとおしゃべりしていて、ドイツには古い給水塔がたくさんあって、なんか気になるよねという話になった。そもそも給水塔とは何なのか、知りたくなった。二人で手分けして調べようということになり、由希さんはベルリンの給水塔を、私はブランデンブルクの給水塔を巡る旅に出た。それまでなんとなく眺めていた給水塔だったが、調べてみると背景がそれぞれ面白くて夢中になった。その成果は自費出版の冊子『ベルリン・ブランデンブルク探検隊 給水塔』にまとめている。

ブランデンブルク探検隊 給水塔を巡る冒険

 

イタリア、シチリア&エオリア諸島火山旅行

同じ火山がテーマの旅でもドイツのアイフェル火山とはガラリと違う、ダイナミックで熱〜い火山旅行。イタリア、シチリア島のエトナ火山、エオリア諸島のフォッサ火山、ストロンボリ火山という3つの火山に登り、火山岩である黒曜石の大産地リーパリ島で石切場を散歩したり、溶岩でできた建物を眺めたりと火山とそこから派生するいろいろなものに触れることができ、とてもエキサイティングな旅になった。

溶岩でできた黒い町、カターニア

地中海の最高峰、エトナ火山に昇る

リーパリ島を散策

ヴルカーノ島でフォッサ火山に昇る

ストロンボリ火山に登って夜の噴火を眺める

アルカンタラの溶岩渓谷を歩く

 

セイシェル、海の生き物に出会うヨット旅

島国日本で生まれ育ったのに、故郷は内陸部、そして成人してからの大部分をドイツで暮らしていて、海には残念ながらあまり縁がない。魚の種類もほとんど知らない。あるとき読んだ海洋生物学の本がとても面白くて、海の生き物に出会いたくてインド洋のセーシェルへ10日間のヨットクルーズに出かけた。クルーズといってもゴージャスな客船旅ではない、小さなボートの旅。美しいインド洋で毎日シュノーケルをして魚との遭遇を堪能した。GoProで撮った水中写真や動画を見返して、リーフガイドと照らし合わせて魚の種類を特定する作業が楽しくてたまらない。

なぜセイシェルにしたのかというと、ポスターなどでよく見かける、ラ・ディーグ島の花崗岩の巨石が横たわる海岸風景があまりに印象的で、あのような景色がいかにしてできたのかを知りたいと思ったから。

セイシェルの島々の成り立ち

セイシェル・ヨットクルージング シュノーケルでインド洋の生き物を観察

 

北海道ジオ旅行

昭和新山

ドイツに住むようになってから興味を持つようになった地質学。日本に住んでいた頃はまったく興味がなかった。もったいない話だ。何北に長い日本は地形や風景の多様性に富み、火山国であることからも地質学的な見どころの宝庫。ジオパークも多い。そこで、2023年夏、3週間かけて故郷、北海道の道央にあるジオサイトをめぐるドライブ旅行をした。美しい自然の中を歩き、その土地の美味しいものを食べて、温泉につかる。そこまでは日本におけるメジャーな旅の仕方だと思うが、ジオサイトをじっくり観察することでより深く楽しむことができ、故郷についての理解が高まった気がする。

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ① 旅の計画

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ② 三笠ジオパーク

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ③ 石狩市望来海岸で油田観察とメノウ拾い

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ④ 洞爺湖有珠山UNESCO世界ジオパーク

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑤ クッタラ火山と登別温泉

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑥ 小樽の地形と石と石造建築

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑦ 積丹半島は景勝地の宝庫

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑧ ニセコ連峯のジオサイト

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023  ⑨ 羊蹄山周辺のジオサイト

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑩ 雨竜沼湿原トレッキング

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑪ 滝川市美術自然史館でタキカワカイギュウを見る

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑫ 旭川周辺のジオサイト 神居古潭

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑬ 旭川周辺のジオサイト 当麻鍾乳洞と層雲峡

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑭ とかち鹿追ジオパーク 東ヌプカウシヌプリの風穴地帯

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑮ アポイ岳UNESCOグローバルジオパーク前編

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023⑯ アポイ岳UNESCOグローバルジオパーク後編

北海道ジオパーク・ジオサイト巡り2023 ⑰ むかわ町穂別博物館でむかわ竜(カムイサウルス・ジャポニクス)を見る

 

コスタ・リカ ジャングル旅行

エコツーリズム発祥の国とされるコスタ・リカは野生の王国。とりわけ、最後の秘境と呼ばれるオサ半島の熱帯雨林は世界でも稀な野生動物のホットスポットだ。2015年に初めてオサ半島のコルコバード国立公園を訪れて以来、忘れられない場所となった。そこで見た生き物、植物、そしてジャングルのサウンド。あの感動をもう一度、そしてもっと深く味わいたくて2024年春に再訪した。3週間半の旅はトラブル続きで辛い思いもしたけれど、念願叶ってコルコバード公園のシレナ•レンジャーステーションに宿泊し、とても濃い体験ができた。

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ① それは悪夢から始まった

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ② 生物多様性とエコツーリズム

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ③ アレナル火山国立公園 〜 フォルトゥナ滝トレイルとバタフライ・コンサバトリー

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ④ テノリオ火山国立公園 〜 空の色をした川、リオ・セレステを歩く

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑤ ドメニカルの野生動物保護区、Hacienda Baru

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑥ 飛び込みチャレンジスポット、ナウヤカの滝

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑦ 悪路の果ての天国 ロス・カンペシーノス自然保護区

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑧ マヌエル・アントニオ国立公園

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑨ コスタリカ最後の秘境、オサ半島コルコバード国立公園

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑩ コルコバード国立公園ロス・パトスセクターの拠点、エコトゥリスティカ・ラ・タルデ

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑪ 夜のジャングルを歩く

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑫ 昼のジャングルを歩く

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑬ コルコバード国立公園、シレナ・レンジャーステーションへ

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑭ コルコバード国立公園、ラ・シレナのガイドツアー

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑮ オサ半島で最後の日々 〜 またもやハプニング

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑯ ロス・ケツァーレス国立公園でバードウォッチングを楽しむ

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑰ 雲海ざんまいの幸運な日

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑱ ポアス火山国立公園 〜 そして旅は悪夢で終わった

コスタリカ・ジャングル旅行2024 ⑲ 【コスタリカ旅行番外編】コンドルとその他の腐肉を漁る野鳥

 

興味のあるテーマはほぼ無限。この先、どんなテーマの旅ができるかな。

 

 

ドイツ国内最大の野鳥園、ヴァルスローデ世界バードパーク(ヴェルトフォーゲルパーク・ヴァルスローデ Weltvogelpark Walsrode)へ行って来た。ニーダーザクセン州ヴァルスローデにあるこの野鳥園には650種、個体数でおよそ4000個体の野鳥が飼育されている。それほど多くの野鳥が見られる野鳥園は世界でも類を見ないという。ヨーロッパには生息しない珍しい野鳥もたくさん見られるに違いない。大いに期待して出かけた。

野鳥園があるのは小さな町ヴァルスローデ(Walsrode)のさらに郊外で、アクセスが良いとは言えない。最寄りの大きな町はハンブルク、ブレーメン、ハノーファー。その3都市の中間に位置し、それぞれの町からは車で片道1時間ほどだ。

駐車場から橋を渡って公園内に入る。

注意したいのは、当日窓口でチケットを買うのと事前にオンラインで買うのとでは入園料がかなり違うこと。オンラインチケットの方がかなり割安なので、事前に購入すべし。

公園の広さは24ヘクタール。大人気のライプツィヒ動物園とほぼ同じくらいの広さだが、野鳥だけで24ヘクタールというのはすごい。園内は順路に沿って4kmほど歩くと一巡できるように設計されている。

公園内にはコウノトリ(シュバシコウ)の巣がいくつもあり、たくさんのコウノトリがカタカタと嘴を鳴らしたり、頭上を常に飛び回っている。シュバシコウはドイツの北東部ではありふれた野鳥で、特別に飼育されているというよりも公園内で生活していると言う方が正確だろう。コウノトリやカモのようなローカルな鳥とアフリカや中南米、東南アジアなどのエキゾチックな鳥が同じ空間に共存しているのが楽しい。

そこには実にいろいろな種がいた。熱帯の美しい小鳥がたくさん見られるのも素晴らしいが、見応えのある大型の鳥も豊富で満足度が高い。印象的だったのはサイチョウ科の鳥で、様々な種類がいた。サイチョウはクチバシの上にもう一つのクチバシのようなコブがついた鳥で、コブがまるでサイのツノのようだからサイチョウと呼ばれる。いかにも邪魔そうだけれど、コブの中身はスカスカで軽いらしい。

メスは子育て中だそうで、邪魔者が来ないようにオスがしっかり見張りをしていた。

その大きさだけでもかなり威圧感があるが、鳴き声もまたすごい。隣のスペースから犬の吠え声が聞こえて来たので不思議に思ったら、アカコブサイチョウの鳴き声だった。

 

そして、今までありふれた鳥だと感じていたハトにも派手な種がいることがわかった。

カンムリバト

ミノバト

園内にはシュバシコウだけでなく、他のコウノトリもいる。たとえば、、、

シロエリコウ

ズグロハゲコウ

アフリカハゲコウ。実に大きい。

 

鮮やかな鳥は、見ていてやっぱり楽しい。

目が覚めるような朱色をしたショウジョウトキ

羽繕いをする姿が優雅なベニヘラサギ

 

私の好きなツルもいろいろいる。

草むらにひっそり佇むヒナを連れたソデグロヅル

 

気品のあるホオジロカンムリヅル

 

しかし、なんといっても圧巻なのはハシビロコウだ。

 

猛禽類コーナーも見応えがある。

ハクトウワシ

コンドル

中南米に生息する猛禽類最強とされるオウギワシ。餌付けを見学した。

フクロウコーナー。

ウラルフクロウ

シロフクロウと子どもたち

ここに挙げたのはもちろんごくごく一部。なにしろ650種もいるのだから、一つ一つの種をじっくり見ていたらいくら時間があっても足りない。園内はよく手入れされていて魅力的だった。生息に適した環境がそれぞれ異なるあれだけの数の野鳥を飼育・維持するには相当な知識とスキルを持ったスタッフが必要なはずだが、唯一無二の野鳥園であるわりには一般認知度がそこまで高くなさそうなのがとてももったいなく感じた。今はハイシーズンなのでそれなりに賑わっていたけれど、冬場はそれほど人が来ないかもしれない。貴重な施設なので、採算が取れずに閉園してしまうようなことにはならないで欲しい、

個人的にちょっと残念だったのは、説明パネル等が少なめで、野鳥関連の書籍も売っていなかったこと。園内には子どもの遊び場がいくつもあって、ショップには楽しいグッズがたくさん売られているので、家族連れで楽しめる施設だと思うけれど、大人の学びのための資料ももう少し欲しかった。

それはともかく、この野鳥園でしか見られない鳥が多いので、行った甲斐があった。家から日帰り圏内にこのような施設があって、本当にラッキーだな。

 

 

アニマルトラッキングをするようになってから、あちこちでアライグマの足跡や糞を目にするようになった。アライグマの足跡は特徴的である。まるで指を開いた人間の手のようで、他の動物と区別しやすいのだ。

泥の上についたアライグマの足跡

「アライグマ」という名前が示唆する通り、特に水辺で見かけることが多い。

とはいえ、アライグマは食べ物を洗うために水場に来るわけではない。食べ物を洗う習性があるからアライグマと呼ばれているのかと思っていたが、それは誤解だった。アライグマは足の触覚がよく発達している。水場で前足を使って食べられるものを探し、その感触を確かめる仕草があたかも食べ物を洗っているかのように見えるということらしい。実際にアライグマが餌を食べる場面を見たことがある。すぐそばに池があるにもかかわらず、洗わずに平気で食べていた。別にきれい好きというわけではないようだ。

アライグマはドイツでは外来種である。毛皮を取るために北米から輸入されたアライグマの一部が1930年代の半ば、ヘッセン州エーデル湖付近に放たれたのがドイツにおけるアライグマ野生化の発端だ。オオカミがいったん絶滅したドイツには天敵が存在せず、雑食で適応力の高いアライグマはどんどん増えていった。最初はヘッセン州北部やニーダーザクセン州南部などドイツ西部の限られた地域のみだったが、第二次世界大戦中の1945年、さらなる増殖を引き起こす事件が起きる。ベルリン近郊のシュトラウスベルクにあった毛皮ファームに爆弾が落ちたのだ。そのとき工場敷地から逃げ出したアライグマは、現在に至るまでベルリンやその周辺のブランデンブルク州で増え続けている。ベルリンはいまやアライグマだらけで、「欧州のアライグマ首都」と呼ばれるほどである。

アライグマは見た目は愛嬌があるけれど、人の住んでいるところへもやって来て建物の中に入り込んで寝ぐらにしたり、畑を荒らしたりするので、なかなかやっかいな生き物である。回虫や狂犬病媒介のリスクもある。多種多様な動植物を捕食するので、在来生態系への影響もかなり懸念されているが、外来種として駆除するべきか、すでに定着した野生動物として扱うべきか、ドイツでは意見が割れている。駆除して個体数を減らすと、その分たくさん子どもを産んで盛り返して来たり、安全なエリアを求めて移動し、結果として生息範囲が広がるなど、逆効果な面もあってなかなか減らない。ベルリン市内ではアライグマをいったん捕獲して不妊手術をし、再び放つという取り組みをする市民イニシアチブが始まったが、効果のほどはまだわからないらしい。

どのような対策を取るにせよ、全国のアライグマ繁殖状況を把握することが重要だ。そこで、アライグマを含む外来種の痕跡を見つけた市民がアプリを通して報告するシチズンサイエンスプロジェクト、ZOWIACが立ち上がった。

私たちが家の近くに設置しているトレイルカメラも頻繁にアライグマの姿を捉えている。散歩の途中にアライグマのトイレと思われる場所を目にすることもよくある(汚いので画像は自粛)。昼間、目にすることはほとんどないが、アライグマは身近にたくさんいるようだ。私もアプリをダウンロードし、ZOWIACプロジェクトに参加することにした。よーし、これからどんどん報告するぞー!

ところがその矢先、予想していないことが起こった。なんと、我が家のガレージにアライグマが侵入した。報告第一弾は自分の家に出没したアライグマということになってしまったのである。

 

抜き足、差し足、忍び足。その姿はまるで泥棒。目の周りの黒い毛が目隠しのようで、泥棒感をさらに演出している。思わず笑ってしまう。しかし、笑ってる場合ではないことがまもなく判明する。

夜になりガレージから出たアライグマは庭に出て、木にぶら下げてある鳥の餌のファットボールに手を出した。さらには、餌台によじ登って中に入り込み、鳥たちの食べ残した餌を平らげてしまった。

 

アライグマは木登りの天才で、どんなところにもよじ登るらしい。庭には野鳥観察のためにカメラを複数設置してあるのだが、それらに映ったアライグマの器用さと大胆さは驚くばかりである。さあ大変なことになった。野鳥の餌はあくまで野鳥のためのものなので、アライグマに食べ尽くされてしまうわけにはいかないのである。この日から夕方まで残った餌は片付けてから寝ることにした。

でも、これはまだほんの序の口だった。本当の悲劇はこの数日後に起こった。

過去記事に書いている通り、我が家の庭には野鳥のためのカメラ付き巣箱を設置してある。野鳥の営巣や子育ての様子をリアルタイムで観察するのが春の大きな楽しみなのだ。今年は初めてアオガラが巣作りをし、10個の卵を産んだ。ヒナが孵るのを今か今かとワクワクして待ち、ついに元気いっぱいなヒナたちが生まれたところだった。親鳥が夫婦でせっせと巣に餌を運ぶ姿を微笑ましく見ていたのだ。

それなのに、、、、。

ヒナが生まれて3日目の朝、カメラを覗くと巣に異変が生じていた。そこに母鳥の姿はなく、巣が荒れている。ヒナ達は横たわり、動かない。一体、夜の間に何があった?

過去にさかのぼって録画を再生したところ、そこには衝撃的なシーンが記録されていた。アライグマが巣箱の中に手を入れ、母鳥を捕まえて食べてしまったのだ。ショッキングな映像なのでここには貼らないが、よく動く、あの人間のような手が親鳥に伸びた瞬間、耐えきれず悲鳴を上げてしまった。ああ、なんということだろう。

もちろんアライグマだって野生動物、本能に従って行動しているだけだ。残酷なようだけれど自然とはそういうものだと言われればそうに違いない。でも、やっぱりショック。アオガラのヒナ達が元気に巣立つ姿を見たかったのに。さらに腹立たしいことには、隣の奥さんに事件について話すと、「うちも鳥の巣を3つも荒らされた」という。そして、斜め向かいのお宅でも、、、。連続野鳥キラーである。恐るべしアライグマ。

このような理由で今年の春の野鳥営巣観察は悲しい結末となってしまった。とても残念。でも、これまでその生態をほとんど知らなかったアライグマを身近で観察する機会が得られたのは、それはそれで一つの収穫と言えるかもしれない。そう思うしかない。

 

 

 

 

前回の記事の続き。

せっかくはるばる自然保護区ベルトリングハルダー・コークまでやって来たからには、できるだけくまなく保護区を見て回りたい。自転車を車に積んで来たので、保護区内をサイクリングすることにした。

地図に入れた紫のラインが今回のサイクリングルート。ホテルArlauer Schleuseを出発し、北回りでだいたい25kmくらいかな。カオジロガンの群れのいる見晴らし台Aussichtturm Kranzを通り過ぎ(カオジロガンの群れについては前記事の通り)、1kmくらい進んだところで左に曲がり、Lüttmoordammという舗装された道を海に向かって真っ直ぐ走る。

この写真は翌日に撮ったので曇っているが、サイクリングをした日は快晴で気持ちがよかった。

真っ平らなので、野鳥に興味がなければ単調な景色に感じるかもしれない。しかし、至るところにいる野鳥を眺めながら、自転車を走らせるのは最高なのである。三角形をした保護区の北西側に広がる湿った草地や淡水池、塩沼にはたくさんのシギがいた。

エリマキシギ (Kampläufer)

オスのエリマキシギ。繁殖期のオスの体の模様にはいろいろなバリエーションがある。首の後ろの羽を襟巻きのように広げて求愛行動をおこなう。残念ながら、広げている姿は見られなかった。

オグロシギ (Uferschnepfe)。草地の地面に巣を作る。

タゲリ(Kiebitz)の姿もあちこちで見られた。

周囲の色と一体化していて、よく見ないとわからないものも。

ミヤコドリ(Austernfischer)。

ソリハシセイタカシギ (Säbelschnäbler)

ここにもたくさんのカオジロガンが。

こちらはコクガンの一種であるネズミガン(Ringelgans)。

ツクシガモ(Brandgans)

巣で抱卵中のガン。

ハイイロガンのヒナはすでにたくさん生まれていて、家族連れで歩いているのをそこらじゅうで見た。

保護区内ではウサギもたくさん駆け回っている。

リュットモーアダムを先端まで行くと、保護区のビジターセンターがあり、ベルトリングハルダー・コークの生態系やその保護についての展示が見られる。

ビジターセンターを見た後は、すぐ前の堤防に上がってみた。

堤防からは海へ線路が延びている。

干潮時にしか利用できないこの線路はHalligと呼ばれるワッデン海特有の小さな島へと続いている。高潮時の海面からわずか1メートルほどの高さしかないHalligが、ワッデン海には10つある。

ハリク、ノルトシュトランディッシュモーア(Nordstrandischmoor)。この小さな島はかつて、シュトラント島というもっと大きな島の一部だった。1634年に起きた高潮によってシュトラント島は海に沈み、ノルトシュトランディッシュモーアはかろうじて残ったその断片なのだ。盛土がされた場所にいくつかの建物が見える。わずかながら人が住んでいて、学校もある。ドイツで最も生徒の少ない学校だそう。

さて、サイクリングを続けよう。

堤防を南に向かって走ると、左手には塩沼に縁取られた塩湖が広がっている。その南側は立ち入り禁止の野生ゾーンだが、その縁を徒歩または自転車で通ることができる。出発地点に戻る途中にはさまざまな景色があり、いろいろな野鳥がいた。

ヨーロッパチュウヒ (Rohrweihe)

 

ヨシキリ(Schilffrohrsänger)

ツメナガセキレイ (Schafstelze)

タゲリ(Kiebitz)とツルシギ(Dunkelwasserläufer)

姿を見たけれど写真撮れなかった野鳥や声を聞いただけの野鳥もたくさんいて、正味1日半の短い滞在だったけれど、大満足。次回はぜひ、ハリクのいくつかを訪れたい。

 

 

 

 

野鳥を見に、ワッデン海国立公園へ行って来た。ワッデン海はオランダからデンマークまで続く世界最大の干潟を持つ沿岸地域で、その特殊環境はユネスコ世界遺産に登録されている。そのうち、ドイツの沿岸にあたる部分はニーダーザクセン・ワッデン海国立公園、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン・ワッデン海国立公園、ハンブルク・ワッデン海国立公園という3つの国立公園から構成されている。ワッデン海へ行くのはこれが2度目。こちらの記事に書いたように、前回はニーダーザクセン・ワッデン海国立公園を訪れた。夏の終わりで渡鳥のシーズンにはまだ早かったにもかかわらず、たくさんの野鳥を見ることができて大感激し、次に来るときには野鳥の種類が特に多くなる春にしようと決めていた。

今回目指したのは、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン・ワッデン海国立公園のベルトリンクハルダー・コーク(Beltringharder Koog)。港町フーズム(Husum)から北西におよそ15kmのところに位置している。ベルトリンクハルダー・コークに限らず、ワッデン海沿岸には地名にコーク(Koog)とつく場所が多くある。聞く慣れない言葉だが、潮の満ち引きの影響で時間帯によって冠水したり陸地になったりする地形、つまり塩性湿地という意味だと知った。

ベルトリンクハルダー・コークは堤防によって海と隔てられた自然保護区で、塩湖や淡水池、塩沼、湿った草地など異なるゾーンから成る。その環境の多様性ゆえに、さまざまな野鳥がここに集まるのである。

現地で入手したパンフレットの地図。環境ゾーンが色分けされている。

今回の2泊3日の旅行ではバードウォッチングに集中したかったので、ベルトリンクハルダー・コーク唯一のホテル、Hotel Arlau-Schleuseに泊まった。抜群のロケーションで、部屋も快適。

 

ホテルのすぐ前の堤防に上がると湿地が広がっている。

ホテルから堤防に沿って北にわずか数分歩くと、Aussichtsturm Kranzと呼ばれる見晴らし台が立っている。到着した日、見晴らし台に登り、辺りを見渡して驚いた。なんとそこにはおびただしい数のカオジロガンがいたのだ。

一体何羽いるんだろう?

カオジロガンたちは堤防を挟んで海側の湿地と畑を行ったり来たりしているようだった。

 

頭の上を黒いベールが風に乗って通り過ぎていくかのようで、圧倒される。

Zugvögel im Wattenmeer – Faszination und Verwantwortung“(タイトルを訳すと、「ワッデン海の渡鳥 〜 その魅力と私たちの責任」となる)という資料によると、カオジロガンは真冬の間は沿岸よりもやや内陸で過ごし、ワッデン海の塩沼には植物が豊富になる3月の終わりにやって来る。そこでお腹いっぱい食べてエネルギーを蓄え、4月の終わりから5月にかけて旅立ち、ノンストップで繁殖地である北極圏のカニン半島へ移動する。ちょうどシーズンなので今回見られるかもしれないとは思っていたが、ここまで大きな群れとは想像していなかった。これを見られただけで、来た甲斐があった。

お腹が丸々しているのはたっぷり食べている証拠

カオジロガンはドイツ語ではWeißwangengans(直訳すると「白い頬のガン」)またはNonnengans(「修道女ガン」)と呼ばれる。修道女と言われると、確かにそんな風に見えなくもない。

野鳥天国ベルトリングハルダー・コークで見られるのはもちろんカオジロガンだけではなく、今回のわずか1日半の滞在中にいろいろな野鳥を見ることができた。それについては次の記事に記録しよう。

 

(おまけ)ホテルの朝食。ドイツの朝食は一般的にはパンとハム、チーズだけれど、海辺ではお魚もあるのが嬉しい。

 

 

野鳥の繁殖シーズンが今年もやって来た!2020年の春、庭のナラの木に初めてカメラ付きの巣箱を設置してから、2020年2021年2022年と3年連続でシジュウカラの子育ての様子を観察することができた。ヒナたちが無事に巣立つこともあれば、いろいろなハプニングで悲しい結果になることもあり、毎年ハラハラである。今年は3月にエジプト旅行に出かけていたので清掃した巣箱を木に戻すのが少し遅くなってしまい、3月31日にようやく設置。すると、すぐさまにアオガラが巣材を運び入れ始めた。他の年も、最初に巣箱に入るのはいつもアオガラだった。しかし、ほんのわずかのコケを運び入れた後、そのまま放置し、いつ本格的に営巣を始めるんだろうと思っているうちにシジュウカラがやって来て巣箱を占領するというのがいつものパターン。だから、今年もそうなるのでは?

 

と思ったら、今年は最初から本気モードで、わずか半日で基盤がおおかたできてしまった。手慣れたものである。ここまで進めたのなら、もう中断はしないだろう。今年は初めてアオガラの子育てが観察できそうだ。

 

メスの作業中、パートナーのオスと思われるアオガラも頻繁に巣箱を訪れている。でも、ちょっと不思議なのである。オスが来るとメス(アオガラのアオちゃんと名付けた)は食べ物をねだって口を開けるが、オスは食べ物を見せるだけで食べさせないのだ。見せるだけ見せて巣箱の出口に戻る。それを数回繰り返す。これはどういうことなんだろう?まるで、食べ物で釣ってアオちゃんを巣箱の外におびきだそうとしているかのよう。このような場面がなぜか数日間に渡って繰り返し見られた。

 

営巣開始から11日目にカメラの映像を見ていると、大変なことが起こった。アオちゃんが巣にいるところにまたオスがやって来た、と思いきや、2羽の間で激しいバトルになったのだ。ということは、やって来たアオガラはパートナーのオスではなく、別のメス???アオちゃんは床にねじ伏せられ、大ピンチ!

実は去年のシジュウカラの営巣では、メスが巣を留守にしている間にクロジョウビタキが巣に侵入し、戻って来たシジュウカラのメスが怒って激しく攻撃した結果、侵入者のクロジョウビタキが命を落とすという事件があったのだ(そのときの記録はこちら)。そんなことがあったものだから、また死闘を目撃することになるのではと焦ったが、格闘の末、1羽が巣箱から出て行き、決着がついたようだ。勝者がどちらなのか、映像からははっきり判断できないが、巣に残ったのはアオちゃんの方であると信じたい。でも、もしかしたら乗っ取りかもしれない。すごく気になる、、、。

 

その翌日、巣に残ったメスは卵を一つ産んだ。口移しで食べ物をくれそうでくれないオスといい、前日のバトルといい、いろいろ謎が残るのだが、めでたく卵が産み落とされたことだし、便宜上、卵を産んだこのメスがアオちゃんだという前提で記録を進めたい。

 

卵の数は毎日1つづつ増えていき、10日後に10つになった。すごいすごい。

 

そして、いよいよ抱卵モードに!ヒナが孵るのが楽しみである。どうか途中でハプニングがありませんように。

 

(続く)

ドイツはもうすぐ復活祭。まだまだ気温は低いけれど、日が長くなり、庭では春のエネルギーが爆発している。冬の眠りから覚めた動物たちが動き回り、野鳥たちが冬超えをしていた南から続々と戻って来て、恋のパートナーを求めて高らかにさえずっている。今、窓の外を眺めながらこの文章を書いている間にも、クロウタドリ、ホシムクドリ、コマドリ、カケス、ズアオアトリ、モリバト、アオサギ、といろんな野鳥が次々に目の前に現れた。

1年のうちで、この時期が一番好きかもしれない。毎日、庭で繰り広げられる野生の生き物たちの活動から目が離せない。裏の家と我が家の庭の境に古い大きなナラの木がある。その木がいろんな生き物の生活の場になっている。

リスが枝の上で器用に毛づくろいをし、

アカゲラが森から運んで来たマツカサを木の隙間に挟んで種を食べ、

アオガラが巣箱で営巣を始めた。古い木が存在することの大切さを強く実感するのも春である。

 

そして、いつものように、春になるとマガモのカップルがなぜか毎日やって来る。

これから初夏にかけて、クロウタドリやシジュウカラ、ゴジュウカラ、アオガラ、クロジョウビタキ、アカゲラなどが一斉に子育てをし、夜にはハリネズミが庭を歩き回り、池にはカエルやヤマカガシが産卵にやって来るのがとても楽しみだ。毎日必ず面白いことがあるので飽きることがない。彼らを観察することが最高のエンタメなのである。サブスク代も払わないのにこんなに楽しませてもらっていいのかな。

(以下は庭にやって来る生き物たちの過去の画像)

とはいえ、今の場所に住むようになって17年になるが、最初から田舎暮らしを楽しんでいたわけではない。もともとは都市育ちで、若い頃は自然にはそれほど興味がなかったし、庭なんて手間がかかって面倒くさいと思っていた。

だけど、今は生き物たちと空間を共有することをとても幸せに感じるようになった。自然がこれほど大きな喜びや心の安定を与えてくれることを、自然の中で暮らしてみるまでは想像できなかった。このブログ、旅ブログとして始めて、今もそのつもりなのだけれど、いろんな理由でかつてのように気軽に旅ができる世の中ではなくなりつつある。自分も歳を取っていくので、いつまでも旅ができるわけではないだろう。たとえ遠くへ行けなくなったとしても、身近にもワクワクするものはいくらでもあると教えてくれたのは生き物たちだ。

今年も忙しくも楽しい春の庭をおおいに満喫したい。

 

 

内陸部に住んでいるので、あまり海に行く機会がない。ドイツにも北部に海はあるのだけれど、真夏でも水が冷たくて泳ぐ気になれない。海の楽しさを忘れかけていたが、去年の秋にセイシェルに旅行に行って、シュノーケルが大好きだったことを思い出した。

セイシェル・ヨットクルージング④ シュノーケルで海の生き物を観察

カラフルな熱帯魚と一緒に泳ぐほど幸せなことはない!と強く感じた日々だった。シュノーケルでもこんなに感動するなら、ダイビングはきっともっと素晴らしいに違いない。ああ、海に潜ることができたら!

しかし、私は自他共に認める運動オンチ。そんな私にダイビングのような難しそうなこと、できるわけがない。いや、もしかして、やってみたらできるかも?ダメダメ、無理だって。やる前から諦めずにやってみる?やめとけ。試すだけでも?一人二役押し問答をしばらく続けた末、「できなかったらやめればいいことじゃないか。とりあえずやってみよう」という結論に達した。

そんなわけで、ダイビングのメッカ、紅海へ行って来た。紅海はアフリカプレートとアラビアプレートが分裂して形成された細長い海で、その海岸線に沿ってサンゴ礁がおよそ4000kmも続いている。世界で最も長い一続きのサンゴ礁だ。気候変動の影響で世界中でサンゴの白化現象が進む中、紅海では今のところ良い状態が保たれているという。これまでに確認されている魚は1200種を超え、そのうちの約10%は固有種というのだから、世界中のダイバーの憧れの的なのも頷ける。

滞在先は南エジプトのマルサアラム(Marsa Alam)に決めた。ポピュラーなのはフルガダ(Hurghada)だけれど、メジャーな場所が好きではない天邪鬼な私なので、まだあまり観光地化されていないマルサアラムのダイビングリゾート、The Oasisを予約した。ベルリンからマルサアラムまでは直行便があり、4時間50分で行ける。

上のマップで一目瞭然なように、ホテルは海に面しているが周りはどこまでも続く砂漠で、それ以外には何もない。

パッと見は普通のビーチリゾートホテル風。でも、実は全然違う。このホテルはダイビングをするため「だけ」の宿泊施設である。

部屋はこんな感じで広々としていて、悪くない。でも、部屋にはテレビもWiFiもルームサービスも何にもない。ここに宿泊する人はダイビングのみが旅の目的のようで、余計なものは求めていないようだ。

目の前は海で、海岸線を縁取るように浅い礁池がある。砂浜から海へと延びた桟橋の先から水の色が急に深い青になり、白波が立っている。そこはドロップオフと呼ばれる、深い海へと続くサンゴ礁の断崖だ。ダイビングライセンスを持っている宿泊客はここで1日に一度、ホテル併設のダイビングセンターが提供するガイド付き無料ダイビングツアーや有料のナイトダイビングに参加できる。

マルサアラムの海岸線はところどころが入江になっていて、砂浜からダイビングの装具を身につけて歩いて海に入ることのできる場所もある。このホテルの便利なところは、毎日、午前と午後に1回づつ、ジープでいろいろな入江に連れて行ってくれるダイビングツアーが組まれていること。

ダイビングセンターの壁に貼ってあるダイビングスポットの説明を読んで、行きたいスポットのリストに名前を書き込んで参加する。

面倒な手続きなしにいろんな場所でダイビングができるシステムが便利だ。とはいっても、私はまだダイビングをしたことがないので、まずは体験ダイビングに申し込んだ。

体験ダイビングには経験もスキルも要らない。インストラクターが海の中を案内してくれるので、自分は呼吸と、ときどき耳抜きだけすればよく、難しいことはなにもなく、ひたすら素晴らしかった。わずか20分くらいの間だったが、6メートルの深さまで潜った。普段はシュノーケルで水面から見ていたサンゴ礁を横から見るとまた違った感動がある。昔話に出て来る竜宮城が頭に浮かんだ。ミノカサゴがゆらゆらと揺れていたり、大きなイカが頭上を静かに泳いで行ったり、海の中は陸上とは生き物の動きが異なり、なんだか神秘的である。ダイビングでは重力を感じずに水平に進むというのも新感覚だ。なにより感動したのは、シーグラスの生えた海の底を泳いでいたら、上から2匹のコバンザメをくっつけたアオウミガメがゆっくりと降りて来て目の前に着地し、シーグラスを食べ始めたこと。テレビのドキュメンタリーで見るような世界が目の前に広がり、夢を見ている気分だった。

これで心は決まった。ダイビングライセンスを取得してダイバーになろう。

夫と一緒に初級ライセンス「オープンウォーター」の講習に申し込んだ。では早速始めましょうということになったが、まずは学科を学んだり、プールで練習したりするものかと思っていたら、最初からダイバー達と一緒にジープに乗せられ、入江に連れて行かれてびっくり。

たくさんある入江の一つ。一見、遠浅の海に見えるけれど、スロープ状になっていてすぐに深くなる。

砂浜に敷いたシートの上でウェットスーツを着、ウェイトベルトを締め、BCD(ベスト)を羽織り、タンクを背負ったらインストラクターと一緒に海に入る。初めて装具を身につけて、あまりの重さに驚愕。なんと10kg近くものウェイト(鉛の錘)を腰に巻くのである。紅海は塩分濃度が高くて沈みにくいことや、初心者は呼吸で浮力をうまく調整できないので、多めのウェイトが必要だということらしい。こんな重い装具を背負って腰を痛めたらどうしよう〜と思いながらヨタヨタと水辺まで歩きながら、「ダイビングって、こんなに大がかりスポーツなんだ、、、」と、海に入る前にすでに不安になって来た。

で、講習はどうだったかというと、、、、。

それはそれは大変でございました。いわゆるクラッシュコース的なもので、わずか56時間ほどで必要な技能と学科を全部終わらせる。短期間でライセンスを取ってすぐに潜り始めたいという人には便利に違いないが、運動オンチを誇る私には無理があった。ちなみに、講習の言語は英語またはドイツ語。私のインストラクターはスイス人だったので、ドイツ語で指導を受けた。

海から出たら、水を張ったタライにシューズのまま入って砂を落とす。

ダイビングの装置のこともダイビングテクニックもまるっきり何も知らないまま、プシューとベストの空気を抜いて海の底に降りるという生まれて初めての体験。そしてその状況下でレギュレーター(呼吸のための器材)を口から外してまた入れろとか、ダイビングマスクを外してまた付けろとか、ウェイトベルトを外してまた付けろとか、ええ?というタスクを次々に課される。しかも、インストラクターの指示がよくわからず、確認しようにも水中では喋れない。はっきり言って、かなり怖い。

これはヤバいことになった、、、。なんでこんなこと始めちゃったんだよう〜。

慣れれば一つ一つはそれほど難しいことではないのかもしれないが、たったの3日では心の準備をする暇も慣れる時間もない。休暇先でのクラッシュコースではなく、家の近くのスクールで時間をかけてゆっくり学ぶべきだったようだ。途中までがんばったけど、胃が痛くなったので、泣く泣くギブアップ。憎たらしいことに、夫は最後まで受講してライセンスを取得した。その後は私はダイバーたちを眼科に眺めながら一人シュノーケル。

そんなわけで、せっかくエジプトに行ってダイビングリゾートに泊まりまでしたのに、ライセンスが取れなかった私である。しくしく。やっぱりダイビングなんて、私にはどだい無理だったのね。

としょんぼりしていたのだけれど、実はダイビングのライセンスには「オープンウォーターダイバー」の手前に「スクーバダイバー」なるレベルがあって、その基準はすでに満たしているとのことで、私も認証機関ISSの「スクーバダイバー」の認証を得ることができたのだ。自動車の運転免許でいうと仮免のようなものかな?「オープンウォーター」ではプロの同伴なしで18メートルの深さまで潜ることができるのに対し、「スクーバダイバー」はプロがついていれば12メートルまで潜って良い。そして、未履修の講習を受けて学科テストをクリアすれば「オープンウォーターダイバー」に昇格できるらしい。よかった、すべてが無駄になったわけじゃなかった。

帰る前日に最後にもう一度インストラクターとダイブしたら、そのときには怖さはかなり軽減していて、時間をかければ、やっぱり私にもできそうな気がして来た。自動車の運転だって最初は怖い怖いと言っていたけど、乗っているうちにだんだん慣れたもんね。ダイビングもそうだと信じたい。

想像以上に美しかった紅海。シュノーケルでも楽しめるけれど、せっかく紅海へ行って潜らないのはもったいない。次回こそ「オープンウォーターダイバー」を取得して、驚異の海中世界を味わいたいものである。

 

以下はシュノーケル中に撮ったマルサアラムの水中動画。

 

 

 

こちらの記事に書いた通り、去年の春からドイツ・ブランデンブルク州にある野外教育機関、Wildnisschule Hoher Flämingでアニマルトラッキングを習っていた。私が受講したのはドイツ語ではWeiterbildungと呼ばれる成人向けキャリアアップ講座で、半年間、月に4日間のキャンプ実習を通してアニマルトラッキングの技術を学ぶというものだった。予定では昨年の10月に終了しているはずだったのが、先生がコロナに感染して9月のモジュールが延期になり、今月の振替モジュールをもって講座が完了。私も全モジュールに参加して終了証書をもらうことができた!

「アニマルトラッキングって、地面についた動物の足跡を見て、なんの動物かを言い当てるんだよね。面白そう」というだけで飛び込んでしまった講座の内容は、想像をはるかに超えていた。終了証書には講座の重点が以下のように記されている。

  • 環境中にフィールドサイン(つまり、野生動物の痕跡)を見つけ、スケッチし、測定し、記録する
  • 野生動物の歩行パターンを学び、地面に残った足跡からその動物の動きを読み取る
  • 足跡がついた時間を推測する
  • 野鳥の地鳴きと囀りを区別する
  • 野鳥の警戒声とその意味を解釈する
  • 生態系における相互関係を理解する
  • 野生動物について、問いを立てる
  • ストーリーテリングを通して自然について学ぶ
  • 五感を研ぎ澄ませて自然現象を認識する
  • 異なる種の間のコミュニケーションについて学ぶ
  • 直感を使ったトラッキングの方法

野外でのいろんな練習やネイチャーゲームを通しての学び、のべ150時間。濃かった〜。キャリアアップ講座なので、参加者の中には野生動物保護組織の職員、環境保護活動家、学校教師など、野生動物について事前知識や経験が豊富な人が多く、単に「野生動物が好き」というだけの私は、正直、ついていくのに必死だった。グループの中で落ちこぼれていたので、メンターに個別特訓されつつ、どうにか完走。ブランデンブルク州に生息する哺乳類の足跡はそれなりに見分けられるようになり、その他のフィールドサインを見つける目も少しはできて来たという実感がある。

うちのあたりの森に生息するシカは、ノロジカ、ダマジカ、アカシカ。足跡を見てどの種か言えるようになった。この足跡はダマジカのもの。

 

ムナジロテンの足跡

 

歩行パターンを読み取る練習。これが難しくて、泣かされた。

 

足跡だけでなく、地面に落ちているものもよく観察する。これはフンではなく、フクロウなどが食べ物のうち消化できなかったものを吐き出したもの。「ペリット」と呼ばれる。

 

キツツキは木の幹に環状に穴を開けて樹液を飲む。

 

換毛期には森の中にごっそりと抜けた毛が落ちていることも。これはイノシシの毛。

シカの下顎の歯

 

フィールドサインを見つけることができるようになると、本当に楽しい。アニマルトラッキングを始めると、山奥などに行かなくても、生き物の痕跡は家の周りの至るところにあることに気づく。単調つまらないと感じていた風景も、実は常に変化し続けているのだと感じられるようになった。

講座を終了したとはいっても、アニマルトラッカーとしてスタート地点に立ったばかり。野生の世界は知らないことばかり。足を踏み入れた世界を進んでいこう。

 

 

去年の8月、我が家のサンルームの窓ガラスに1羽の猛禽類が激突し、死んでしまった。

ガラスに野鳥がぶつかるのは残念ながら珍しくなく、少しでも事故を減らそうと窓ガラスにステッカーを貼ったり、ツタのカーテンを垂らしたりしているのだけれど、それでも時々、ぶつかってしまう。ぶつかった鳥は脳震盪を起こしてしばらくぼうっとした後、元気になって飛び去ることがほとんどだが、この猛禽類は可哀想なことに首の骨を折り、即死だった。とてもショックだったけれど、猛禽類を間近でじっくり見ることは滅多にない。せっかくの機会だから観察してみよう。ゴム手袋をはめて、羽を広げてみた。

 

 

体長およそ30cm、翼を広げると、その幅は47cmほど。羽の色、模様を含めて判断するに、ハイタカの若鳥らしい。美しい個体だ。それにしても、鳥にはこんなにたくさんの羽が生えていたんだ。瞼は上から下ではなく、下から上に閉じるんだね。クチバシも爪も触れるのは初めてだ。へー、なるほどなるほど、こうなっているのね、とひとしきり観察した。

さて、この死骸、どうしよう?

そのままゴミとして捨てるに忍びず、どうしたものか。アニマルトラッキングの仲間に野鳥の羽標本を作っているKさんがいるのを思い出して、連絡してみた。「うちの庭でハイタカが死んでしまったんだけど、死骸いる?」「喜んで!」。しかし、今は標本を作る時間がないので、冷凍保存しておいてくれないか、というと。そこで、彼女に時間ができたら標本作りに参加させてもらおうと思いついたのだった。

先日、ようやくその機会がやって来たので、冷凍ハイタカを持ってKさんの家へ。ハイタカを二人で半分こし、私は右半分の羽標本を作ることになった。

初めての体験にドキドキ。やってみたいと言ったものの、翼部分を切り取ったり、最初の1本の羽を抜くのには少々、勇気がいる。「普段から鶏の手羽先などを調理しているんだから、羽がついているかいないかだけの違いだ」と自分に言い聞かせながら、恐る恐る手を動かす。

 

羽を部位ごとに注意深く台紙に貼るKさん。

手順はわりにシンプルで、標本にする羽を1本1本抜き、部位ごとに並べて接着剤で台紙に貼っていくだけ。でも、鳥の体の構造を全然わかっていなかったので、部位を確認しながら羽を並べていくのは難しかった。

 

Brown, Ferguson, Laurence, Lees著 “Federn, Spuren & Zeichen”より

風切羽(ドイツ語でSchwungfeder)には、初列(Handschwingen)、次列(Armschwingen)、三列(Schirmfeder)の3種類がある。風切羽は大きく形も特徴的なのでまだわかりやすい。しかし、雨覆羽は細かい区分があって、それが何列も重なっている。形も似かよっているので、どこからどこまでが何の羽なのか、さっぱりわからない。Kさんを見様見真似でやったけど、翼の部分だけで6時間くらいかかってしまった。

羽を貼った台紙は無視がつかないよう、密封できるビニール袋に入れて保管する。分類や並べる順番が間違っているかもしれない。

 

ご飯も食べずに作業し、半日以上かけて初めての羽標本作りが終了。とても興味深い体験だった。

作業の際には図書館から借りた野鳥の羽の本の他、Featherbaseという羽標本のオンライン辞典を参考にした。Featherbaseはみんなで作るデータベースで、学者だけでなく世界中の羽コレクターが作った羽標本が登録されている。これがすごい。World Feather Atlasを作ることを目標にしており、集まった標本は学術研究にも活用されるそうだ。図鑑.jpというサイトにFeatherbaseに関する日本語の記事があったので貼っておこう。

番外編 世界の羽事情

Featherbaseには日本支部もある。

日本支部による説明記事

 

羽についてほとんどわからないままの作業だったけれど、家に帰ってから作った標本をFeatherbaseのハイタカのページや、その他のサイトの野鳥の体の構造図とじっくり見比べているうちに、「あー、なるほど。こうなってるんだ」と少しづつ鳥の羽の構造が見えて来て面白い。こんな世界があったとは!また新しい領域に足を踏み入れてしまった。バードウォッチングは、鳥そのものを見るだけではなく、鳥の巣も落ちている羽も面白い。無限に楽しめる世界だと再認識。

ところで、忘れずに書いておかなければいけない。ドイツでは、すべての野鳥は保護の対象にあり、羽を含む野鳥の体の一部を拾ったり、所有したり、売買することは連邦自然保護法により禁止されている。これは密猟を防ぐためで、学術研究を目的とする場合のみ、特例として許可される。

なので、今回の羽標本作りは推奨される行為ではない、ということになる。道端に綺麗な羽が落ちていたら子どもが拾ったり、工作に使ったりするのは自然なことに思えるし、一般人も参加できる羽標本データベースプロジェクトが存在するのに矛盾している気がする。自然の中にある羽は持ち去ってはいけないらしいが、では、自分の家の庭で死んだ鳥の場合は?羽を標本にして野鳥について学ぶのは、そのまま生ゴミとして処分するよりも悪いことなのか?難しい問題である。

ということで、羽の扱いには要注意です。

 

 

 

散歩中に野鳥の巣を見つけたら、写真を撮ることにしている。

これが結構、楽しいのだ。繁殖の時期だと、野鳥の営巣作業や抱卵中の様子を観察できることがある。それ以外の時期でも、ヒナが巣立って空になった後の巣を眺めて、これは何の鳥の巣だろう?と調べるのが面白い。

これまでに目にした鳥の巣をまとめてみよう。

 

ドイツ北東部で最も目にしやすいのは、シュバシコウ(Weißstorch)の巣だ。繁殖のために南から渡って来たシュバシコウが、あちこちの村や小さな町の高いところに作られた巣に座っている姿は春の風物詩だ。シュバシコウは保護されているので、繁殖を助けるためにあちこちに写真のような巣台が設置されており、その上に巣が乗っている。巣作りはオスメスの協力作業で、細い枝を円形に編み、その中にクッションとなるコケ、草、羽などを敷く。シュバシコウは一夫一婦制で基本的に毎年同じ相手とつがいになり、同じ巣を修理しながら使い続けるので、だんだん巣が大きくなる。熟年夫婦の巣になると、直径2メートル近くになることもあるらしい!

 

これは数年前にうちの庭のナラの木にモリバト(Ringeltaube)が作った巣。枝を無造作に重ねただけのわりに雑な造りに見える。しかも、こんな写真が撮れるくらい目立つところに作って、カラスや猛禽類に狙われないのかなあと心配になった。数日間は夫婦仲良く巣に座っているのが見えたが、やっぱり塩梅がよくなかったのか、その後、この巣は放棄されてしまった。

 

庭の巣箱内にシジュウカラが作った巣。シジュウカラの巣作りはメスの仕事。巣箱内に取り付けた野生カメラで営巣の様子をずっと観察していたのだが、狭い巣箱の中で器用に小枝を丸く編んで土台を作り、そこにコケや動物の毛を置いてふかふかした座り心地の良さそうな巣を作っていた。

無事に巣立って餌台に餌を食べに来たシジュウカラのヒナたち。

 

アオガラは樹洞に巣を作る。中の巣は見れないけれど、シジュウカラと似たような巣なのかな?

 

あるとき、散歩で通りかかった池の淵のヨシの間でカンムリカイツブリが営巣をしていた。カンムリカイツブリの巣は同時に交尾の舞台でもあるそうだ。オスメスが一緒にヨシや植物の根っこ、枯葉などで巣を作り、その上で交尾する。なんとなく面白い。

 

これまでに見つけて一番嬉しかったのは、ツリスガラ(Beutelmeise)の巣。ツリスガラは湿地や林の中の木の枝に、蜘蛛の糸や綿、植物の繊維などを使ってフェルト製のバッグのような吊り巣を作るのだ。巣を作るのはオスで、メスはオファーされた巣のうち気に入ったものを選んでその中に産卵する。手の込んだ巣は作るのに30日くらいかかるが、いざメスが選んでくれたら、オスはもうそのメスに用はなく、さっさと移動してまた別の巣を作り、別のメスにオファーするらしい。メスはワンオペで育児をしつつ、巣のメンテも自分でしなければならない。この巣の写真を撮ったとき、メスが忙しそうに巣を出たり入ったりしていた。動きが早くて、ツリスガラ自体の写真は残念ながら撮れなかった。

 

森の中で見かけた木の股につくられたクロウタドリ(Amsel)の巣。枝を編んだ丸いカゴのような巣に緑がかった卵が4つ並んでいる。クロウタドリは木の上だけでなく、地面、生垣の中などいろいろな場所に巣を作る。もともとは森の鳥だったクロウタドリは今では都市部でもすっかりおなじみの野鳥になり、民家のベランダや花壇などに巣を作ることも多い。巣材にはセロファンなど人工物が使われることもある。外側は泥で塗り固める。クロウタドリは主に地面でヒナのための餌を探すので、巣は比較的低い場所にある。

地面で虫を捕まえるクロウタドリのメス

 

お隣の家では、毎年、ガレージにクロジョウビタキ(Hausrotschwanz)が巣を作る。頻繁に人が通る場所なのに落ち着かなくないのかな?と不思議に思うけれど、クロジョウビタキは風雨が凌げさえすれば、他のことはあまり気にしないらしい。

 

これは、ある駅の構内にできたツバメ(Rauchschwalbe)の巣。泥を固めてできた巣だ。

こちらは建物の軒下にできたニシイワツバメ(Mehlschwalbe)の巣。これもほぼ泥でできていて、上のツバメの巣と似ているが、違うのはツバメが通常、建物の中に巣を作るのに対し、ニシイワツバメは建物の軒下などに作ること。つまり、ツバメはインドア派でニシイワツバメは半アウトドア派?

ツバメの仲間にはショウドウツバメ(Uferschwalbe)というのもいて、砂質の崖に穴を掘って巣を作る。バルト海沿岸の崖でたくさんのショウドウツバメが巣穴を出入りしているのを見た。なかなか壮観だった。

 

キツツキはその名の通り、木をつついて穴を開けて巣を作る。

 

カササギ(Elster)は木のかなり高いところに枝を使って球状の巣を作る。

 

カササギ

 

ある日のドライブ中、国道沿いの原っぱにクロヅル(Kranich)の巣を発見したときには驚いた。遠目だけれど、よく見ると卵があるのが見える。道路からは距離があり、周囲を水に囲まれてはいるものの、人や動物が簡単に近づけるようなところに巣を作って大丈夫なんだろうか?

 

最後は番外編でパナマで見た鳥の巣。

オオツリスドリ(Montezuma Oropendola)は草木の繊維を編んで細長い大きな釣り巣を作るのだ。

巣作り中のオオツリスドリ。

 

これは博物館に展示されていたオオツリスドリの巣。すごいなあ。

 

種によって簡素だったり、ものすごく手が混んでいたり、千差万別な野鳥の巣。野鳥は種類が多いだけに、巣の鑑賞の楽しみは尽きることがないだろう。

 

 

2月になって、少しづつ日が長くなっているのを感じる。とはいえ、まだまだ寒い日も多く、先週は地面にうっすらと雪が積もった。こちらの記事に書いたように、去年の5月からアニマルトラッキングを学び始めたのだが、雪が降るとトラッキングがとても楽しい。雪の上に残った動物の足跡は見つけやすいから。

キツネの足跡。

 

ノウサギ。

 

小さなハート型の可愛い足跡はノロジカのもの。

こちらもシカの足跡。副蹄がくっきりとついている。ダマジカかもしれない。

 

シカが倒木を超えていった跡が木の幹の表面についている。真ん中からやや左の手前にはキツネが前足を揃えて幹に乗せた跡。

 

これは大きさと形から、クロウタドリの足跡と思われる。

 

これはカラスの足跡っぽい。

大きさからして、この辺りにたくさんいるズキンカラスでしょう。

 

これもカラスだけど、さっきのより大きくて太い。雪が溶けている部分に降り立って、歩いていったのだろう。周りにはキツネの足跡もたくさん。

このサイズのカラスはワタリガラスしかいないよね?

 

確信ないけど、たぶんアオサギ。

 

尻尾を引きずって歩いたヌートリアの足跡。

 

最高に可愛いのはリスの足跡。倒木を端から端までぴょんぴょん飛んでいった跡がくっきり残っていた。

 

アニマルトラッキングのためのガイドブックはたくさん出ている。

Joscha Grolmsの”Tierspuren Europas”はヨーロッパのアニマルトラッカーのバイブル的な本で、とても詳しい。でも、情報量が膨大なので、初心者にはちょっと使いづらいかも。真ん中上の”Tierspuren und Fährten”はイラストのガイドブックで、使いやすい。すべてドイツ語なので用語をその都度調べる必要があるけど、野生動物の足跡やその他の痕跡が読めるようになって来ると、森の国ドイツでの散歩が何倍も楽しくなる。

 

 

バードウォッチングを初めて3年ちょっとが経過した。最初のうちはとにかく目についた野鳥の写真を撮っては種名を調べることに熱中していた。それから季節が何度か巡り、身近にいる種がだいたい把握できたら、今度はそれぞれの種について知りたくなった。庭にやって来る野鳥の種類も増えて、いろんな種に親しみを覚えるようになって来た。

バードウォッチャーとしてまだ日が浅いけど、それぞれの種についてこれまでに観察したことと本で読んだり詳しい人に聞いたことをまとめていこう。第一弾は「キツツキ」について。

キツツキとは名前の通り、木をつつく習性のある鳥を指す。でも、キツツキというのはキツツキ科に含まれる鳥のことで、「キツツキ」という種名の鳥がいるわけではない。日本語ではキツツキの仲間には「〜ゲラ」という種名が付けられている。ドイツ語ではキツツキの仲間は「ナニナニSpecht」と呼ばれる。

 

ドイツに生息するキツツキ科の鳥は以下の10種。

  • アカゲラ  (Buntspecht, Dendrocopos major)
  • ヒメアカゲラ (Mittelspecht,  Dendrocopos medius)
  • コアカゲラ (Kleinspecht, [Dryobates minor)
  • ヨーロッパアオゲラ (Grünspecht, Picus viridis)
  • クマゲラ (Schwarzspecht, Dryocopus martius)
  • オオアカゲラ (Weißrückenspecht, Dendrocopos leucotos)
  • ミユビゲラ (Dreizehenspecht, Picoides tridactylus)
  • ヤマゲラ (Grauspecht, Picus canus)
  • シリアンウッドペッカー? (Blutspecht, Dendrocopos syriacus)
  • アリスイ (Wendelhals, Jynx torquilla)

これまでに見ることができたのは、アカゲラ、コアカゲラ、ヨーロッパアオゲラ、クマゲラの4種である。この4種についてわかったことをまとめよう。

まず、ドイツで個体数が最も多いアカゲラについて。

アカゲラはその名の通り、お腹の下の方が赤い。下腹部が赤いのはオスメス共通だけれど、オスは後頭部も赤い。メスの頭は真っ黒である。この写真はうちの庭によく来るアカゲラで、見ての通り頭の後ろに赤い部分があるのでオスだとわかる。

アカゲラは環境適応力が高いため他のキツツキよりも生息範囲が広く、そこらじゅうにいると言っても言い過ぎではない。ドイツ人がSpechtと言われて真っ先に頭に思い浮かべるのはアカゲラだろう。ドイツでは散歩がポピュラーなアクティビティで、みんなよく散歩に行く。森の中を歩くと、アカゲラのドラミングの音がよく聞こえてくる。ドラララン、ドララランという明るく小刻みの音が特徴だ。

キツツキのオスは他の多くの鳥とは異なり、美しいさえずりではなく木をつつく音でメスにアピールする。ヴォーカリストというよりもドラマーだ。メロディよりもリズム感で勝負、というとなんとなくカッコいいけど、せっかく演奏してもメスに注目(注耳?)してもらえなければしょうがない。だから、乾燥した、よく響く木を選んでつつくのだ。キツツキの求愛期間は長い。これを書いている現在は2月の初めだが、近所の森にはすでにアカゲラのドラミングの音が響き渡っている。なかなかパートナーを見つけられないオスは延々とドラミングを続けることになる。喉が枯れるほど歌うのとクチバシを木に叩きつけまくるのとでは、どっちがより疲れるだろうかなどと無意味なことをつい、考えてしまう。また、アカゲラのドラミングはパートナー探しだけでなく、ナワバリを主張するためでもある。

うまくパートナーのメスが見つかったら、今度は子育ての準備開始である。ここでも木をつついて開けて巣穴を作る。アカゲラの場合、巣穴の使い回しはあまりせず、ほぼ毎年、新しい巣穴を作るそうだ。2週間ほどかけて完成した巣穴にはコケなどのクッション材を置いたりはせず、メスは木屑の上に白くて光沢のある卵を4つから7つほど産む。抱卵はオスメスが交代でおこなうが、夜間はパパの担当だそうだ。卵は10日ほどで孵化し、それからヒナが巣立つまでの3週間ほどの間、親鳥はせっせと巣に餌を運ぶ。

 

巣立ちが近づくと、幼鳥は餌をもらうときに巣穴から顔を出すようになる。これがなんともかわいくてたまらない。バルト海沿岸の森で親に餌をもらうアカゲラの幼鳥を見かけたときには感激して、ずっと愛でていたかった。でも、幼鳥にとって、不用意に巣から顔を出すのはキケンだ。捕食者があたりに潜んでいるかもしれない。だから、親が戻って来るまで幼鳥は巣穴の中で待っている。戻って来た親鳥は近くの木から「餌持って来たよー」と鳴き声で知らせ、それを合図に顔を出した幼鳥は素早く餌を受け取って、またサッと穴の中に戻る。巣立ち間近な幼鳥はそれを頻繁に繰り返していた。

この親鳥も頭の後ろが赤いから、パパだろう。幼鳥は性別に関係なく頭のてっぺんが赤い。巣立った後も、しばらくの間は親に餌を食べさせてもらったり、餌の見つけ方を教えてもらったりする。去年の春、うちの庭の餌場には親鳥が子連れでやって来た。「ここのファットボールは安心して食べていいからね」と親に言われたのだろうか。そのうち子どもは単独でも食べに来るようになった。しかし、餌場の管理人(つまり、私たち)が無害でも、油断は禁物だ。周辺の森にはオオタカ(Habicht)やハイタカ(Sperber)など、キツツキを捕食する猛禽類がいる。まだ世の中に慣れていない幼鳥は特に狙われやすい。キツツキは警戒心が強いのか、頻繁に上方を確認する習性がある。餌場で餌を食べるときにも約1秒ごとに顔を上げてキョロキョロとあたりを確認しているのを、いつもキツツキらしい仕草だなあと思いながら観察している。

 

気をつけていてもやられるときはやられる。これは近所の森で見た惨事の跡。羽の大きさから見て、捕食されたのは大人のアカゲラのようだ。

ところで、森の中を歩いていると、ときどき、木の股や裂け目に松ぼっくりが挟まっていることがある。

これはドイツ語ではSpechtschmiede(「キツツキの鍛冶場」、の意味)と呼ばれるものだ。アカゲラは松ぼっくりをこのように固定してから、鱗片の裏側にある種子を取り出して食べるのだ。鍛冶場の下の地面には種子を取り出した後の松ぼっくりがたくさん落ちている。

こういうのを目にするたびに、生き物の行動って面白いなあとつくづく思う。

さて、身近なアカゲラの観察も楽しいが、それ以外のキツツキを見る機会はぐっと減るので、見つけるととても嬉しくなる。私が特に好きなのはクマゲラ。ドイツに生息するキツツキのうちで最も大きく、体長50cmほどもある。

光沢のある黒い体に赤い帽子がお洒落。ちなみに、赤い部分が頭全体を覆っているのはオスで、メスは後頭部に小さな赤い部分があるだけだ。

クマゲラは、自然破壊や捕獲によって19世紀半ばにはドイツ北部からほぼ消滅していた。保護の甲斐あって最近はそれほど珍しくなくなっている。クマゲラはオオアリ(Rossameisen)やキクイムシ(Borkenkäfer)の幼虫を好み、巣はブナの木に作ることが多い。クマゲラの作る巣穴は他のキツツキのものよりもずっと大きく、楕円形をしていることも多い。ドラミングの音はアカゲラのそれよりも低く、ドラミングの長さも長い。クマゲラは喉が大きく、ヒナに与える餌を親鳥が喉に溜めておいて、吐き戻して与えることができるので、広範囲に餌を集めることができるそうだ。

これは多分、クマゲラが穴を開けた木

キツツキの作る樹洞は当のキツツキだけでなく、他のいろいろな生き物が利用する。クマゲラの穴は大きいので、 主にヒメモリバト(Hohltaube) やキンメフクロウ(Raufußkauz)、ホオジロガモ(Schellente)がよく使うらしい。意外なことにゴジュウカラも利用者だという。あんなに小さいゴジュウカラには入り口が大き過ぎて捕食者が入り放題になりキケンでは?と思ったら、ゴジュウカラは穴の入り口に泥を塗って固め、ジャストサイズにするらしい。ゴジュウカラを意味するドイツ語”Kleiber”は「貼る」という意味の動詞”kleben”が語源だと知った。

こちらはヨーロッパアオゲラのメス。オスは目の下が赤いので、写真を撮れば見分けることができるけれど、遠目に見分けるのはまず無理だろう。アリが主食のアオゲラは伝統的な果樹など開けた場所を好む。キツツキだけど地面にいることが多いのだ。長くてベタベタした舌でアリを捕まえて食べ、ヒナに与える餌もほぼアリのみ。ドラミングはもっぱらパートナーとのコミュニケーションの目的のみで、ナワバリの主張のためにはしない。アオゲラはドラミングをあまりしない代わりによく鳴く。目立たない体の色をしているけれど、キョキョキョキョという特徴的な鳴き声なので、姿が見えなくても声でああ、近くにいるなとわかるようになった。アオゲラは巣穴を作ることに関してはあまり熱心ではなく、同じ穴を何年も使うそうだ。

 

そしてもう1種。雪の降る日に森の中で一度だけ目にした小さなキツツキはコアカゲラだった。体重はわずか2ogほど。キツツキというよりも小鳥という感じ。葉や枝についた虫を食べる。

 

ドイツに生息するキツツキはすべての種が保護の対象だ。森にキツツキがたくさんいれば、リス、マツテン、ヤマネ、コウモリなど哺乳類からハチやアリなどの昆虫まで、キツツキが枯れ木に開けた穴を利用する生き物の密度が高くなり、またそれらの捕食者も増える。キツツキは森の生物多様性に不可欠な存在なのだ。

これから春にかけて野鳥の活動が活発になる。今年もキツツキの親子を見ることができるだろうか。まだ目にしたことのない光景が観察できたらいいな。

 

参考文献:

Volker Zahner, Robert Wimmer (2021) “Spechte & Co. Sympathische Hüter heimischer Wälder”

 

野生動物が好きなので、数年前から地元ブランデンブルク州の自然保護団体がおこなっているヨーロッパヤマネコやビーバーのモニタリングプロジェクトにボランティア調査員として参加している。モニタリングとは、対象となる動物の痕跡を探して記録する活動で、集まったデータは保護活動やその基盤となる科学研究に使われる。

野生動物の痕跡を探す活動を「アニマルトラッキング(ドイツ語ではSpurenlesen)」と呼ぶ。痕跡というのは、動物足跡はもちろん、たとえばビーバーであれば齧られた木やビーバーダム、巣など、そこに動物がいたことを示すものすべてを含む。自然の中を散歩しながら生き物の痕跡を見つけるのはとても楽しいので、本格的に学びたいなあと思い、去年からWildnisschule Höher Flämingという自然教育の学校でアニマルトラッキングを習っている。

詳しくはこちらの記事に書いた通り。

トラッキングを学ぶのに大事なことは、とにかく野外を歩いて自然を観察すること。参考書も読むけれど、家の中にいては学べない。日々観察して気づいたことや写真を今年からTumblrに記録することにした。TumblrはSNSなので趣味や興味が似ている人をフォローしたりできるが、投稿すると、こんなふうにブログが自動生成されるのがとても便利!

 

ブログのテーマはいろいろなものから選べ、カスタマイズもできるようだ。自分のための記録が目的なので凝ったことをするつもりはなく、見やすく、後から検索しやすければいいかな。アーカイブも月毎及び投稿の種類ごとに自動生成されるようだ。

そもそも自分はインターネットを使って何がしたいのか?と自問してみると、「自分の興味を広げたり深めたりしたい」ということに尽きる。自分一人で黙々と興味のある情報を集めるのもいいけれど、同じような興味を持つ人の発信を参考にしたいし、自分も気づいたことをネット上にアップしておけばどこかの誰かの参考に多少なりともなるかもしれないと思って書き留めているのである。SNSのフォロワーを増やして影響力を持ちたいとか、注目されたいというわけではないし、仕事の一環としてやっているわけでもない。Tumblr は適度にマイナーなSNSで人目を気にせず好きなことを投稿でき、世間話よりも趣味について話したい自分のニーズに合っている気がする。投稿を後から編集できるのも嬉しい。

ということで、今後は旅の記録は引き続きこのChikaTravelブログに、日々の自然観察については姉妹ブログ「チカの自然観察日記」に書いていくことにしよう。

Tumblrのアカウント名は、chikawildlife。